目次

客室乗務員は機内サービスより救命・保安要員としての任務が重要

1.各社のサービスを体現する「客室乗務員」
使用機種や機内空間の制約から、際立ったサービスの差別化は難しいとされる航空業界。そのなかで、各社のサービスのシンボルともいえるのが客室乗務員(クルー)だ。かつて女性は「スチュワーデス」、男性は「スチュワード」と呼ばれていたが、性別を問わない「キャビンアテンダント」「フライトアテンダント」の名称が海外で主流となり、日本でも正式には「客室乗務員」と呼ばれるようになった。

客室乗務員と接する機会が多いのは、ミール(機内食)サービスの場面だろう。おしぼりにはじまり、食後のコーヒーを飲み終わるまで何度もクルーのサービスを受ける。機内が寒いとブランケット、のどが渇くと水を頼んだりと、お世話になる場面は多い。だが、クルーの対応のしかたは航空会社によってさまざまだ。そこには各社の母国や属する地域の文化、ものの考え方が反映されていることが多い。

多少乱暴な分類だが、総じて北米系の航空会社は「ざっくばらんで気さくな対応」、欧州系は個人主義の浸透した風土を背景に「ほどよい距離感を保ちつつ、必要なときに必要とされる対応」、東南アジア系は「アジアのホスピタリティをベースにした親しみやすい対応」がサービスの持ち味といえるかもしれない。

これに対し日系は「日本人のニーズを知り尽くした、きめこまかく丁寧な対応」が特徴とされたが、最近は丁寧さを保ちつつ、自然体で比較的あっさりした対応が増えているようにも思える。もちろんこれは、そういう傾向があるということで、実際は同じ会社の同じ路線でも、クルーのチームによって受ける印象は異なるし、相性もあるだろう。

ただ、利用クラスによるサービスの差はお国柄を問わず大きい。これは1人のクルーが担当する乗客数が、各クラスで大きく異なるからだ。ファーストでは、定員10名程度でも3人程度のクルーが専任で付くのが一般的。結果、たとえ満席でも十分にパーソナルなサービスが期待できる。

ちなみに外国のエアラインもほとんどの場合、日本発着便には日本人または日本語が話せるクルーが乗務している。その数は航空会社や路線により異なるが、なかには1便に乗務するクルーの約半数が日本人というヴァージンアトランティック航空のような会社もある。


2.客室乗務員で一番大切な仕事
乗客を笑顔で出迎え、手にしたボーディングパスをチェックして指定の座席まで案内したあとは、新聞やおしぼりを一人ひとりにサービス。さらに食事の時間には全員にすみやかにミールが行き届くよう、ギャレーでてきぱきと準備を整え、食事が終わると機内販売のカタログをもって客席を回る。客室乗務員の仕事はじつに多彩です。

では、そのなかでもっとも重要なのはなんでしょうか。笑顔での対応?おいしいワインや食事の提供?いいえ、彼女たちに課せられたもっとも重要な任務は「乗客の安全を守る」こと。保安要員としての役割なのです。

機内サービスがメインじゃない?
客室乗務員=機内サービス要員。そんなイメージをもっている人が多いようです。しかし、そもそも客室乗務員という職業は救命・保安要員としてスタートしました。「乗客の安全を守る」ことは現在でも客室乗務員のもっとも大切な任務で、緊急時に的確な対応ができるように常に厳しい訓練を積んでいます。

新人トレーニングや定期訓練の期間・内容は、エアラインによって多少異なります。入社後の新人トレーニングには6~8週間程度をあてているエアラインが多いなかで、たとえば質の高いサービスで定評のあるシンガポール航空ではその倍の15週間(約4カ月)をかけて実施。その後、実際のフライトで乗務に就き始めてからも、新しい機種に乗務にするための追加トレーニングやセキュリティなどに関するフォローアップ研修を定期的に受けなければなりません。

また、日本では客室乗務員になるための特別な資格は必要ありませんが、海外では保安要員としての任務を遂行するための「救命士」の資格取得を条件にしている国や、客室乗務員という職種自体を国家資格に定めている国もあります。

たとえば救命士などの資格を客室乗務員に課しているのは、フランスやオーストラリアなど。エールフランス航空では旅客機の緊急着水を想定し、一人ひとりの水泳技能をチェックする試験も行われています。

3.習得から応急手当訓練まで
エールフランス航空はまた、定期訓練の頻度がもっとも多いエアラインとしても知られています。他のエアラインが年間1~2回程度であるのに対し、エールフランス航空は現役の客室乗務員に対して年4回の定期訓練を実施。国から認定された乗務員専用のトレーニングセンターを保有し、とくに救命・保安に関する教育に力を入れています。

入社後の新人トレーニングを長期間行っているのは、シンガポール航空や、韓国のアシアナ航空など。ここで、シンガポール航空の計15週間にわたるトレーニング内容をざっと紹介しましょう。前半の訓練ではパーソナルタッチのサービスをいかに身につけるかに重点が置かれ、具体的なサービス業務に関わるトレーニングのほか、ソーシャルエチケットやコミュニケーション能力などのスキルアップが図られます。そして後半は、ハイジャックやテロに備えた武術の習得や、ファーストエイド(応急手当)訓練などが繰り返され、また外国人乗務員の場合はそこに厳しい語学(英語)訓練が加わります。

4.不審な人間は誰一人通さない
15週間の期間中は、月曜から金曜の朝8時45分から夕方5時30分までカリキュラムがびっしり。それだけに訓練が終わる4カ月後には、一人ひとりに「保安要員」としての自覚が備わり、どの新人たちも見違えるようにたくましく成長を遂げます。

この「保安要員」としての自覚をとくに強く感じるのが、アメリカ系エアラインの客室乗務員たちです。
予定の便に乗客が搭乗するときには、すでに空港で厳しいセキュリティチェックを通ってきています。そんな乗客たちを、客室乗務員が入口で笑顔で出迎えますが、じつは彼女たちは歓迎のあいさつをするためだけにそこに立っているわけではありません。あるアメリカ系エアラインの客室乗務員は、きっぱりとこう言いました。

「私たちが入口で一人ひとりを出迎えるのは、最後のセキュリティチェックのためでもあります。そこでもう一度、お客さまに搭乗券を提示していただき、このフライトを利用されるお客さまに間違いないかどうかを確認しているのです。不審な人、得体の知れない人は誰一人ここを通さない。そういう強い決意で私たちは入口に立っています」

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