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航空機は人だけではなく貨物輸送も行っている

1.輸送機最初の仕事は郵便物の輸送
輸送機の歴史は古い。第一次世界大戦の終了後、不要となった爆撃機を改造し、飛行機による輸送業務が始まった。その始まりが郵便物の輸送である。

1920年の中ごろにはアメリカで年間1400万通の郵便物を飛行機で運ぶよう になっていた。航空郵便は国土の広いアメリカや、数多くの植民地をもっていたヨーロッパでおもに発達した。 日本の航空郵便が本格化するのは、1929年に航空郵便の定期航路ができてから。

輸送機もやはり戦争がその開発を促したといえる。兵器や物資、兵員を戦地に送り込むために大量に製造された。第二次世界大戦では完全に兵器として輸送機はその地位を確立する。第二次世界大戦後、ふたたび余剰機材として放出された輸送機は、旅客機時代を産み出す原動力となった。

現在も飛行機の主要任務は輸送
現在においても輸送機の活躍は変わりなく、特に民間分野での発展がめざましい。今では物資の輸送を担う、重要なルートとして活躍している。 これまではおもに物資は船により輸送していたのだが、速達便としての航空輸送が脚光を浴び、これまでの郵便物のほかに、生鮮食料品まで飛行機で運ばれるようになった。

成田空港で1年間に積みおろしされる貨物の量は約200万tで、岩手県釜石港の貨物量に匹敵する。 輸送機に使われる機材は旅客機に使われる機材と重複する。つまりB747や B767などの旅客機には貨物機タイプが存在する。それぞれB747-400FやB767-300Fと呼ばれる。番号の最後につく"F"は"Freighter" をあらわす。日本語に訳すと、そのものずばり貨物輸送機である。世界最大の旅客機であるA380にも貨物機タイプが計画されている。

これらの専用機には、胴体側面にずらりとならぶ旅客用の窓はなく、胴体はつるりとしたイメージをもつ。乗客が座るスペースも貨物室とされ、カーゴスペースの他には、乗員のための席や休憩スペースがあるのみである。

これらの専用機の他に、旅客機から改造されたものもある。旅客輸送では経済的に割に合わなくなった機体が、貨物機に改造される。すべての乗客用の座席は取り払われ、客室は貨物搭載用に改造される。


2.高成長が見込まれる貨物部門
「旅客部門」とともに航空会社のビジネスの大きな柱となるのが「貨物部門」である。世界にはフェデラル・エクスプレスやユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)など、インテグレーター(空陸一貫輸送企業)と呼ばれる貨物専業の大企業があるが、旅客輸送を担う世界の大手航空会社もそれぞれ貨物事業を展開。

ジャンボ機では1階客室の下にあるベリー(機材の腹の部分)などに貨物を搭載し、輸送している。日本航空の場合、2005年度の国際線の売上の約21%を貨物収入が占めている。貨物の中身は、日本からの輸出では約73%が機械機器、約20%が半導体等電子部品など。

こうした高付加価値商品を中心に、日本発着の国際貨物量は急速に拡大した。輸出入の合計は1990年の約158万tから05年はその2倍以上にあたる約319万tとなった。経済のボーダーレス化による国際分業の増加、在庫削減、製品サイクルの短縮化などがその背景にある。国際貨物を輸送量ベースでみると、航空輸送が占める割合は0.3%に過ぎないが、金額ベースでは約30%を占めるのである。

航空会社別では、IATAの国際航空貨物輸送実績で04年度、05年度と連続で世界1位にランクされた大韓航空をはじめ、ルフトハンザカーゴ、シンガポール航空などがトップクラスの実績をもつ。


3.今後20年間、平均6%台の成長
日本の航空会社も貨物事業の拡大を最重要課題のひとつに掲げる。日本航空は、05年度に2100億円だった貨物事業の売上(国際。国内合計)を10年度には約3割増の2710億円に拡大する計画だ。そのために同社は、大型機と中型機のコンビネーションによる効率的な運航体制の実現や、中国および国内深夜便マーケット等の成長市場への展開を積極的に図るとしている。

全日空にとっても、貨物事業は国内、国際の旅客事業と並ぶ3本柱のひとつで、国内の深夜貨物便事業等にも積極的だ。06年2月には、日本郵政公社などと貨物専業のANA$JPエクスプレスを設立した。ほかに貨物専業では、日本郵船グループの日本貨物航空(NCA)、06年10月末より運航を開始した佐川急便系の新規航空会社、ギャラクシーエアラインズなどがある。

世界経済の堅実な成長をバックに、航空貨物輸送は今後も高い成長が見込まれる。ボーイングでは25年までの今後20年間の年平均成長率を6.1%と見込む。これは旅客輸送の同4.9%を大幅に上回る数字だ。とくにアジア圏では高い成長が予測される。同社では今後20年間で世界の貨物専用機の数が、06年時点のちょうど2倍になるとみている


4.「人と一緒に運ぶ」か「物だけ運ぶ」
人を運ぶだけが航空機の役割ではありません。物を運ぶ役割、つまり、貨物輸送も航空産業を支える環境として無視するわけにはいきません。

貨物輸送には大きく分けて2つの形態があります。旅客を運ぶ航空機の下部のスペースを使って、旅客と同時に貨物を運ぶ方法(ベリー輸送)と、貨物専用機を使って貨物だけを運ぶ方法です。

フェデックス(フェデラル・エキスプレス)やユナイテッド・パーセルといった貨物便専門会社は、後者に特化して輸送を行っていますが、日本航空などの航空会社は、貨物専用便を持ちつつ、ベリー輸送も行っています。

大手航空会社の貨物輸送については、もう1つ注目すべき事柄として、航空貨物アライアンスWOWがあります。これは、旅客輸送の面で行っているアライアンスとは別の形で、すなわち貨物輸送の面で形成されたアライアンスです。

WOWでは、旅客面でのアライアンスの枠組みを越え、まったく違ったアライアンスに属する会社同士が結びつき合っています。具体的には、ルフトハンザ、エールフランス、英国航空、シンガポール航空など、有力な航空会社がメンバーとなっており、日本航空も2002年に加盟しています。

このようなアライアンスが登場してきた背景としては、2点考えられます。1つは、旅客輸送だけでなく航空貨物の輸送も、景気の動向に強く影響されるため、航空会社間で提携する必要があったということです。

しかし、より重要なのは、主としてベリー輸送を行う航空会社が、単独ではなかなか貨物専用会社の規模に勝つことができず、貨物事業の継続が難しくなるという点でしょう。実際、日本航空は、再建過程の中で、貨物専用便の撤退を表明しました。それは、貨物専用会社である日本貨物航空との提携交渉が行き詰まり、結局は決裂という形に終わったのを受けてのことです。今後は、全日空が那覇空港の貨物基地をどのように展開していくのかが、大いに注目されるところです。


5.貨物輸送の特色
旅客輸送に比べた貨物輸送の特色は以下の3ないである
1点目として、1貨物は帰らないである。ほとんどの旅客は旅行終了後、出発地(自国)に戻ってくるが、貨物は出発地へ戻らない。たとえば生産地(中国)から空輸されるデジタルカメラは、消費地(米国)で販売のため取り降ろされ輸送が完了する。中国から米国までデジタルカメラを運んでいたスペースは、復路に輸送する別の貨物がない場合はカラになる。航空旅客と違い片荷輸送が原則であるため、輸送量に方向別のアンバランスが発生する場合がある。

2点目は「貨物は喋れない」である。旅客は目的地空港に到着すれば、携帯電話などで自ら関係者に連絡し目的地到着を伝達できるが、貨物は現在所在地を自ら関係者に伝達することができない。その観点でSCM(サプライチェーンマネジメント)の進展に伴い、荷主への「貨物の動態情報提供(見える化) が重要となり、航空会社を含め物流企業のIT整備が不可欠である。

3点目は「貨物に足はない」である。貨物は1人歩きはできず、第三者の手助けが必要である。旅客は自ら電車・車などで空港に行き、搭乗手続き・手荷物検査を経て機内に搭乗し空港到着後も入国手続き・手荷物引取り・税関検査を終えて、電車・車などで最終目的地に向かう。一方、貨物は荷主引取り・空港搬入・通関・x線検査・航空機搭載・取り降ろし・通関手続き・空港引渡し・荷主倉庫搬入などすべての過程で第三者の介在(手助け)を必要としている。
よってeチケット技術の進化で予約~搭乗までの係員非介在形の自動化・セルフ化が進展する旅客輸送に比べ、貨物輸送は係員の非介在化や輸送プロセスの合理化に限界がある。


6.「9.11」を機に貨物輸送の見直しが進む
歴史的に見て、航空貨物の重要性が飛躍的に高まったのは、先進国メーカーが生産コストのより安い場所、特にアジアヘと生産拠点を移し始め、国際分業体制が深化していく過程の中でのことでした。

こうしてメーカーの部品・完成品が、アジア域内、あるいはアジアとその他の地域との間で、頻繁に空輸されるようになります。特に電子部品など、容積が小さい反面、付加価値が高いものであれば、海運よりもはるかに効率的です。

それにもかかわらず、こうした物流体制の重要性は、実際の市場の中ではともかく、国際経済学のような学術的な面ではあまり顧みられてこなかつたように思われます。「物流体制は確実に機能して当たり前」そんな思い込みがあったせいで、そのリスクが注目されることがあまりなかったのではないでしょうか。

そんな無関心な態度に大きな反省を迫ることになったのが、2001年9月に起こった米国同時多発テロです。この事件直後、米国の空港は全面的に閉鎖され、国際物流は完全にストップしました。これによって生じた経済的損失は膨大です。

その後も、米国を離発着する航空便には多くの制約が課されることになります。旅客の入国管理が非常に厳しくなったことは有名ですが、貨物に関しても、爆発物が含まれていないかどうかをたしかめるために、貨物を空港内に一定時間取り置くという措置が長期にわたって実施されました。

この結果、スピードが要求される航空貨物輸送に遅れが生じ、大きな支障をきたすことになりました。また、検査待ち貨物のためのスペース確保が、空港側の悩みの種になりました。

しかし、こうした国際的物流体制の大きな混乱を機に、物流体制の確保・維持は、一種のリスク管理として見直されるようになったのです。

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