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航空機体をペイント塗装するのにもちゃんと理由があった!

1.機体をペイントする本当の理由
世界の空ではたくさんのエアラインが活躍を続けています。そしてエアラインの数だけ、マーキング(機体ペイント)のバリエーションがあります。現在はほとんどのエアラインがボーイングかエアバスの旅客機を使用していますので、機種の形だけ見てもどの会社のものかはわかりません。空港でひと目で「あ、あのエアラインだ!」とわかるのは、ボディにペイントされたロゴマークやシンボルカラーのおかげです。
ここでは、そんなマーキングについて考察してみましょう。

塗装をしていない機体が現れた!
さまざまな国のエアラインが乗り入れる各国の主要空港では、駐機している旅客機の機体に描かれたデザインを見比べてみるのも楽しいもの。ホワイトのボディをベースに尾翼にロゴマークをあしらったオーソドックスなものから、黄色、緑、赤、オレンジなどの原色を使った派手なデザインまで、エアラインによって個性はいろいろです。

そんななかで2007年7月、ボディにカラーペイントをしていない、シルバーの外板そのままの機体が羽田空港に登場。航空ファンたちを驚かせました。JALが貨物事業で導入したボーイング767貨物専用機です。
この非塗装のスタイルは「ベアメタル」といって、アメリカン航空などでも採用してきました。昨今の旅客機のあまりにカラフルな機体デザインに慣れすぎた人たちからは「ベアメタルカラーの機体はむしろ新鮮でおしゃれ」といった声も聞かれます。しかしベアメタルカラーを採用する理由は、じつはデザイン性ではありません。エアラインの狙いは別のところにあります。

あえて塗装しないことによる軽さを重視しました」と、新しいボーイング767貨物専用機の導入に携わったJALの関係者は話します。「機体を非塗装タイプのポリッシュドスキンにしたことで、約90kgぶんの重量力軽減できました。また非塗装にすることで、塗装作業や塗料の剥離などによる環境への影響を小さくできるという狙いもあります」

2.保護膜の役割も
実際、大型旅客機では、ボディ全体に塗られている塗料の量はドラム缶で数本分にもなります。それを0.1mm程度の均一の薄さで塗っていくわけで、作業の手間も相当なもの。またそれだけの重量をカットして、そのぶん使用する燃料の量を減らしたり積載貨物を増やすことで、運航効率を高めることもできます。

けれども、だからといってすべての機体からロゴマークやカラフルなペイントが消えてしまっては、エアラインを利用する楽しさも半減してしまいます。機体のマーキングにはエアラインの個性をPRする宣伝効果もありますし、またもう一つ、飛行中の機体を守る役目を塗装が担っていることも忘れてはなりません。

上空を飛行中の旅客機は、雨やひょう、空中の塵や紫外線などの外敵に常にさらされています。そんな過酷な環境下でも安全に飛行を続けるため、機体の劣化を防ぐ保護膜の役割を果たしているのが塗装なのです。

JALのべアメタルカラーの貨物専用機も、機体には透明ポリウレタンの皮膜を施していますし、また通常の塗装をあしらった機種では数年に1度の割合でリペイント(再塗装)して機体の美観と強度を保っています。

3.世界で出会える特別塗装機
ところで、最近はそれまでの機体ペイントとは異なる手法が開発されました。塗装の代わりに、2m×1m程度の大きさの特殊なシールを機体に貼り合わせていく方法です。

空港へ行くと、駐機中の機体を指さして子供たちが大騒ぎしている光景に出会うことがあります。子供たちの視線を釘づけにしていたのは、ANAの「ポケモンジェット」でした。JALもタレントの相武紗季さんをデザインした「先得ジェット」や、2008年の北京五輪では歴代のメダリストを描いた応援ジェットを就航。いずれも、シールを貼りつける方法で実現した特別塗装機です。

この特別塗装機のブームの走りとなったのが、巨大なクジラを機体に描いたANAの「マリンジャンボ」でした。1993年秋にANAは乗客5億人突破を記念して機体のカラーデザインを全国の小・中学生から公募。そこで選ばれたのが、クジラと海の仲間たちを描いたデザインでした。特別塗装機ブームはその後、各国に飛び火し、現在は世界のあちこちの空で個性あふれる機体に出会えるようになっています。

特別塗装機ブームはその後、各国に飛び火し、現在は世界のあちこちの空で個性あふれる機体に出会えるようになっている。なかでも人気だったひとつが、ANAの「ポケモンジェット」である。それを目当てに休日に空港にやってくる家族連れも多かった。

中国線就航を記念して2007年に登場した同じANAのボーイング767-300ERによる「FLYパンダ」機も記憶に新しい。2010年7月から翌年3月末まで飛びつづけた「ガンダムジェット」は、世の中年層を熱くした。JALの特別塗装機で話題だったのは、サッカー日本代表を応援するため2006年に就航した「サムライブルー機」や、同じ時期に家族利用者促進のために登場した「たまごっちジェット」などだ。最近では2016年より、子どもたちに人気の「ドラえもんJET」を国内線に就航させた。

2020年開催の東京五輪に向けては、JALとANAがそれぞれの機体に同じ「心ひとつに行こう2020」のキャッチフレーズと東京大会のロゴを描いた特別塗装機を国内線に就航させている。日本人の心を盛り上げていこうという応援機だ。

数ある特別塗装機のなかでもいま大きな注目を集めているのが、ANAの「スター・ウォーズ機」だろう。ウォルト・ディズニー・ジャパンとのあいだでブランドを活用するライセンス契約をANAは2015年4月に締結。2020年3月までの5年間、映画『スター・ウォーズ』に登場するさまざまなキャラクターが描かれた機体が国内外の空を飛ぶ。

4.尾翼のデザインに見える海外エアライン
旅客機は2大メーカーであるボーイング機とエアバス機が全体のほぼ8割を占め、機種としてはそれ以外のメーカーを含めてもさほど多くない。それなのに人々が旅客機に魅了されるのは、各国のお国柄などが色濃くあらわれたカラフルなマークやデザインが機体に塗装されているからだろう。

機体塗装のデザインの違いは、見る人にその国や就航都市への憧れをかき立ててくれる。いっぽうのエアライン側にしてみれば、個性的なデザインは利用者に企業イメージを発信する手立てとしても非常に重要だ。

エアライン各社の機体の尾翼デザインは、「国旗」「鳥」「花・植物」「地球・天体」などのカテゴリーに分類すると覚えやすい。

現在の大手エアラインはほとんどが民間資本による民間の会社だが、スタート時点では国営が多かった。つまり、名実ともに「ナショナルフラッグ・キャリア」として歩んできたわけだ。そのため、機体のロゴやデザインにも「国旗」をモチーフにしているケースが少なくない。

アメリカン航空やエールフランス航空、アエロフロート・ロシア航空、フィリピン航空、パキスタン航空、大韓航空、エミレーツ航空、ブリティッシュエアウェイズ、スイスインターナショナルエアラインズなどがその一例だ。

国の誇りをイメージした「王冠」を尾翼にデザインしているエアラインもある。 王政国家オランダのKLMオランダ航空や、ロイヤルヨルダン航空などだ。

空を飛ぶ夢を託して「鳥」をデザインのモチーフにしているところも多い。ルフトハンザ、キャセイパシフィック航空、中国国際航空、中国東方航空、ターキッシュエアラインズ、エティハド航空などである。ちょっとわかりづらいが、シンガポール航空なども尾翼デザインの元になっているのはまぎれもなく鳥だ。カンタス航空の尾翼には鳥ではなく、オーストラリアに棲息するカンガルーが描かれた。

タイ国際航空やエアタヒチヌイ、チャイナエアライン、ベトナム航空などは花や植物をモチーフにしたデザインを採用。ユナイテッド航空やエバー航空は「地球・天体」がモチーフで、広大な宇宙の星たちに空への思いを投影した。

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