第2次世界大戦後の民間航空輸送の発達はめざましく、途中に第1次及び第3次石油危機や湾岸戦争、9.11テロなどによる一時的な停滞はあったものの、世界中で民間航空輸送に使われている大型ジェット機は機数、飛行時間、飛行回数ともに年々増加してきている。
たとえばボーイング社が提供している世界の民間航空輸送用大型ジェット機に関する統計データによれば、2006年には機数は約2万機、飛行回数は約2000万回、飛行時間は約4000万時間であり、20年前と比べると、機数、飛行回数、飛行時間ともに大幅に増加している。
以下同じくボーイング社の統計データに基づいて過去の大型ジェット機の事故について見ていくことにする。まず初めに事故の発生率と死亡搭乗者数の推移を見てみると、全事故発生率は1970年代前半までは顕著な改善が見られるが以降今日に至るまでほぼ30年の間、横這いあるいは緩やかな減少傾向にある。
また死亡事故発生率も全事故発生率と同様に若干ながらも改善が見られ、最近の10年ではそれ以前と比べて非常に低いレベルに到達している。 しかし死亡搭乗者数については年ごとにばらつきはあるも近年になっても決して大幅に減少しているとはいえない状況が続いている。
事故はいつ起きるのか
ボーイング社のデータによれば2006年には28件の大型ジェット機の事故が起きており、そのうち75%の21件が離着陸時に発生している。事故は全部で89件発生し5149人の搭乗者が亡くなっている。
うち38件(43%)が空港への進入時あるいは着陸時に、また17件(19%)が離陸時と離陸直後の上昇開始時に発生していて、両方をあわせると
全死亡事故の6割以上が離着陸時の約15分余りの間に集中して発生していることがわかる。
事故はどこで起きているのか
前項では事故の発生状況について述べてきたが、航空機事故は世界中の各地域で同じ確率で発生しているわけではない。国際航空運送協会(International Air Transport Association, IATA) による2006年の地域別全損事故発生率にも見られるように,地域によって大きな差が出ている。
このデータは旧ソ連と独立国家共同体(Commonwealthof Independent States, CIS)諸国を除いた西側諸国で製造された航空機だけを対象にしているものだが、地域別の事故発生率を示す興味深い数値である。
2006年西側諸国製航空機の全損事故発生率が、全世界平均で100万飛行回数当たり0.65であったことを示しておりIATAのセーフティレポートによればこの年はロシアとアフリカを除く地域の民間航空にとっては過去最も安全な年であった。
しかしロシアでは全損事故発生率が世界で最も高く100万飛行回数当たり8.6件も発生し、またアフリカでの発生率は100万飛行回数当たり4.31件であった。このように安全性には地域によって差異があるが、特に事故発生率の高い地域では不十分な訓練、老朽化した機体、人材の不足などが原因になっていると考えられており、 ICAOやIATAの指導によって改善の取り組みがなされている。
2.事故を防ぐために
① 事故の原因
過去10年の死亡事故における死亡者数発生状況別分類によれば、死亡事故の原因は操縦の失敗や不注意による地上への激突や墜落が圧倒的に多くまた死亡者数も群を抜いている。もちろんこれらの事故原因は悪天候などのさまざまな要因が複合的に影響して発生している。
ちなみにIATAの統計によれば事故の43%は悪天候下で起き、38%は乗員同士あるいは乗員と管制官の言語能力に起因するコミュニケーション・エラーが関係し、 33%には乗員の訓練に関する問題が関係しているといったデータもあり、これらの問題は着陸時の判断に関する訓練の強化、標準的な英語の言葉遣いの採用、乗員のための詳細な訓練基準の設定などの具体的な対策によって取り組まれているが、主原因としてヒューマンファクターが関係していると考えられることも多い。
② 事故防止対策
事故防止対策には過去に発生した事故の教訓やヒューマンファクターズ(人間の能力と限界についての知見を総合的に活用する学問と技術)が重要であり、主に人間工学的な側面からの航空機の改良とヒューマンエラーへの対応があげられる。
航空機の改良
航空機にはこれまで多重システムの導入、航法装置の充実、エンジンの信頼性の向上、自動化の拡充、警報や防御システムの追加、直感に訴える計器表示の導入など多くの改良が加えられてきている。
最近の具体例としては衝空防止警報装置CTrafficAlert and Collision A voidance System,TCAS) や機能強化型対地接近警報装置CEnhancedGround ProximityWarning System,EGPWS) などの各種エラー防止装置の機体への装着、あるいは液晶表示の統合計器およびヘッドアップディスプレイなどがあり、これらの装置のほとんどは人間の能力を補ってエラーの発生時にその影響を最小にするために働くように作られている。
わが国においては、最後に大規模な死亡事故が発生してからすでに20年以上が経過しているが、航空会社では安全運航の堅持を目的として以下のような取り組みが行われている。
① 社内安全教育の実施
事故の風化防止
大手航空会社では過去に起きた事故を風化させず、安全運航のために社員一人ひとりが何をできるかについて考え、安全への高い意識を保ち続けるために、グループ会社も含めた全社員を対象とした教育の場として安全教育センターを設置し新入社員、中堅・監督層、管理職の階層別に教育を実施している。
ヒューマンファクターズ教育の実施
航空会社の各生産部門はパイロット、整備士、客室乗務員など非常に専門性の高い職種で構成されているため、それぞれの部門において専門性に基づいたヒューマンファクターズに関する教育を階層別に実施している。
② 安全マネジメントの徹底
航空会社では経営理念の一つである安全理念やSMSの要件等を反映して、安全に係わる基本方針、管理体制、管理の実施などについて定めた、安全管理規程に基づき安全推進活動を進めている。
安全を推進するための組織としては、まず本社部門では安全に関する社内の最高機関である「総合安全推進委員会」が会社全体の安全方針の決定や各部門への助言・勧告を行い「グループ総合安全推進室」がこれをサポートして安全に関する体系的な仕組みづくりや安全を向上させるための活動を司るとともに、その仕組みがグループ各社も含めて適切に機能しているかどうかの評価を行っている。
また航空会社の各生産部門には「安全推進会議」と「安全担当部署」が設置され、それぞれに専門的な課題の解決にあたっている。
さらにこれらの組織的な対応に加えて日々の航空機のオベレーションにおいて正常かつ正確に運航するという、現場のアクティビティーを全社で共有しスピーディーな問題解決をはかるために社長以下の経営トップが運航状況を細かく確認するといった対応も取られている。
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