航空運送業の第1の特徴は「運送という商品の在庫がきかない」ことがあげられ、これは陸海空の運送サーピス全般に当てはまることである。
航空に限らず陸上や海上も含めた運送サービスは生産即消費という特性を持っており、空席や空いた貨物スペースは運送後に販売するわけにはいかない。
また定期航空会社は国土交通省に申請したダイヤに沿って定期便を運航しなければならないため、乗客がきわめて少なく赤字が出る便でも申請したダイヤに沿って運航しなければならない。出発時間が決まっている航空機で空席がある場合、乗客1名を追加して輸送する際の費用の増加分、いわゆる限界費用と呼ばれるものは、その乗客分の機内サービス費(飲物、機内食代)や重量増加分の燃泊費など全体の費用の中ではきわめて小さな割合で追加的な費用は微々たるものであり、これは航空貨物運送でも同様である。
第2の特徴は「運送そのもののサービスは同質的」であることである。運送とは人や財貨をA地点からB地点に移送するサービスであり、特に座席数が100席を超えるジェット旅客機のメーカーはボーイングやエアバスなど世界で数社しかなく、世界の航空会社は同じような機材を使い同じような運送サービスを行っている。
このため競争状況の下では自らの航空会社を乗客に選んでもらうため、他社と「差別化する戦略」が出てくる差別化は
座席や機内食や機内エンターテインメントを改善する等で運送サービスの付加価値を高める方法と、コスト削減やサービス簡略化で運賃を下げ(またはマイルを追加し)運送サービスのコストパフォーマンスを上げる方法と、大きく2つにわけられる。差別化で後れをとった他の航空会社は、逆に同じサービス、運賃で追随、模倣する等の戦略を取る場合が多い。
航空運送業固有の特徴として固定費がきわめて大きいことがあげられる。
ジェット旅客機はきわめて高額で、たとえば長距離国際線でよく使われるボーイング(以下B) 777-300ER型(国際線使用247席)は、機内の仕様の違いにもよるが1 機250億~300億円である。1機で小さな工場を建てるのと同じくらいの値段になる。地上での搭載積み降ろし作業時聞が必要なため飛行時間約10時間を超える目的地の路線(たとえば成田-ニューヨークなど日本と米国東海岸、日本と欧州を結ぶ路線)は1日1往復の使を飛ばすのに2機が必要になる。また小型のジェット旅客機であるB737-700型(国内線仕様136席)でも1機約70億円と高額である。
航空機のほかにも予約・搭乗載管理のためのコンピュータシステムや空港でしか使えない特殊な作業用車両(航空機を牽引するトーイングトラクター、コンテナを機体に積み込むためのハイリフトローダ一等)や航空機の格納庫、また乗員訓練用フライトシミュレーターなど、航空運送業に必要な固定資産は多岐にわたり、しかも高額である。
また高額な資産を揃えても航空需要は周期的で季節的な波動が高い。このため資産を通年で効率よく高稼働させるのは難しい。国内線、国際線とも年間を通じて旅客が移動する時期はだいたい決まっており、観光旅行や帰省旅客は休暇で航空機を利用するため、夏休み、年末年始が混み合うなど、年間の季節波動がかなり固定的である。逆にビジネス旅客のほとんどはウィークデイの仕事で利用するので、国内線ビジネス旅客はウィークデイに集中し国際線ビジネス旅客の出発便利用は日・月曜に、帰国便利用は週末中心になる。
高額な航空機や専門職であるパイロットや整備士を季節的に休ませることにも限度があり、生産力の柔軟な調整が困難である。閑散期はピーク期に比べて運賃水準が安いが、それでも余る座席の販売対策として、いわゆるパーゲン型運賃を投入して需要を喚起するなどの対策を行っている。
また航空運送業は「空港などのインフラストラクチャーに依存」している。
ジェット旅客機を揃えても、その旅客機が出発し到着する空港の施設の利用権や空港の発着枠が確保できないと運送サーピスを開始できない日本では需要の多い羽田・成田・伊丹空港の発着枠が満杯で、事業者が自由に増便・新規参入できない状況にある。特に羽田路線は国土交通省によれば2005年の国内線利用旅客9450万人の63%であり、国内の旅客流動の6割以上を占めている。羽田の拡張が議論されるのも、そうした背景がある。
そのほかにも航空運送業には「政府の関与や規制」があるこれまでは未熟な産業の保護といった側面から国内航空は新規参入や価格が長らく規制されてきた。 1980年代の半ばから自由化が段階的に進んでおり、現在では安全規制以外は路線免許、運賃認可のような規制はない。また国内線の競争促進のため、羽田空港の発着枠が増加したときには、新規参入事業者に優先的に発着枠を配分することも行われてきている。
最後に航空運送業では「専門的な職種の社員が必要」という特徴がある。航空会社にはパイロット、客室乗務員、整備士、運航管理者など専門的な職種の社員が大勢必要であり、このうちパイロット、整備士、運航管理者は国家資格であり、試験を行い、合格して国家ライセンスを国土交通大臣からもらわないと業務につくことができない。特にパイロットと空港での航空機の出発点検のライン整備士は機種別のライセンスが必要である。このように、航空会社は多数の専門職で業務を行っている労働集約的な側面も持っている。
2.航空運送の費用
航空会社は航空機を運航して航空運送サービスを行う企業であるが、その費用は多岐にわたっている。費用を分類して会計処理する目的の1つには、航空運送サービスにおける収支の分析がある。航空会社全体の収支は企業会計原則に沿って経理を処理していけば算出可能だが、各路線の収支はどう計算するべきであろうか。各路線の収入は、国内線運賃であれば単区間の運賃規則なので路線収入は容易に計算できるが、国際線運賃にありがちな複数区間の通し運賃であれば、区間距離やその他で出発地から目的地までの収受金額を按分して各区間収入を計算する。
費用については各種費用を機種別、路線別に基準を作り按分し経費を分析していく。航空会社の費用には共通にかかる費用や按分すべき費用も多く費用配布の基準は複雑になる。たとえば旅客機は客室で乗客を運ぶが、多くの場合床下の貨物室では貨物や郵便を輸送して運賃をもらっている。この場合に機体の減価償却費や燃料費などは旅客運送にかかった費用分と貨物運送にかかった費用分に基準を作り按分しなければならない。
国際民間航空機関(InternationalCivil Aviation Organization. ICAO) は航空運送に関する費用を直接営業費(航空機の機種に依存して費用が変動)と間接営業費(航空機の運航に直接結びつかず、機種変更の影響を受けない)に分類している。
直接営業費は運航費(乗員人件費・乗務旅費・燃油費・機体保険料など)整備費(機体やエンジン・部品の修理・点検・保管にかかわる費用)、減価償却費(航空機・装備品やハンドリング機材の減価償却費)、公租公課(着陸料・空港使用料・航行援助施設利用料など)に分類できる。
間接営業費は空港関係費(旅客や貨物のサービスのための空港での職員人件費・施設費用など)、乗客サービス費(客室乗務員人件費・乗務旅費・機内食などの機内サービス費、フライトイレギュラー処理費などに販売費(販売や販売促進に関わる人件費等諸費用・広告宣伝費・代理屈手数料)、一般管理費(総務・管理業務関連費用)に区分するのが一般的であるが、各社により分類・区分や費目の名称は異なる場合が多い。
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