スワンナプーム空港はバンコク中心部から約30キロメートル東に位置し、周囲を湿地帯が囲んでいる。市内からの距離は従来のドンムアン空港とあまり変わらない。ちなみに「スワンナプーム」とは2006年に即位60年を迎えたタイのプミポン国王が命名した名前で「黄金の土地」という意味だという。
同空港の敷地面積は約3200ヘクタールと広大だ。ドンムアン空港の約5倍、成田空港の約3倍ということになるのでその広さをご想像いただけるだろう。3700メートルと4000メートルの平行滑走路が1対で、方位は01/19。したがってランウェイナンバーは01L/19Rと01R/19Lである。この新空港オープンによりドンムアン空港での旅客。貨物の取り扱いは終了し、スワンナプームに移動を完了したため、ドンムアン空港は軍用基地としてのみ存続することになり、旅客ターミナルビルは閉鎖された。
スワンナプームのターミナルはメインビルディングと十字を二つつなげたような形のサテライトからなっており、設計はドイツ人建築家のヘルムート・ヤーン氏が担当、施工は竹中建設、大林組、イタリアン・タイJVなどが行った。床面積は56万平方メートルという世界最大規模のスペースが確保されている。
2.広くて機能的な旅客ターミナルビル
これまでバンコクの玄関口であったドンムアン空港は軍民共用で、周囲を住宅街や高速道路に囲まれていたため拡張することは不可能だった。またターミナルビルは古く狭いうえにターミナル間の移動も遠くて不便であった。また、利用客数のわりにスペースが小さく、車寄せは常に渋滞し、ターミナル内は人をかきわけて進むような状態。スポットも少なかったため、軍用エリアのスポットに民間機が駐機せざるを得ないということもしばしばだった。タイの経済力や旅客の多さを考えると粗末な空港であることは誰の目にも明らかだったといえる。
しかしスワンナプーム空港の開港によりバンコクの空の玄関口のイメージは一新された。出発階はモダンな造りで、大きな柱を除くとほとんど外面はガラス張りであり、吹き抜けを設けることにより、低層階にも外光が入る工夫がなされている。
建物自体は地下1階から地上7階までの8フロアで構成されており、下から順に説明すると地下1階が市内と空港を結ぶ鉄道駅、1階がバス・タクシーなどの車寄せとメディカルセンター、2階が到着ロビー及びホテルやハイヤーの乗降場、3階がコンビニやフードコート、4階が出発ロビーと車寄せ、5階がエアラインオフィス、6階がレストラン、7階がオブザベーションデッキとなっている。
この中で一般旅客が主に利用するのは2、3、4階だろう。4階出発階チェックインカウンターエリアは吹き抜けの高い天丼とガラス張り壁面により明るい雰囲気。チェックインカウンターはアイランド形式でエアラインごとに分かれた360のカウンターがあり、アイランド間の幅もゆとりがあるため、混み合っても人が通れなくなることはない。
そしてターミナルとコンコースを結ぶ位置には合計190か所を超える出入国管理ブース(出国120か所、入国72か所)があり、以前よりもスムーズに出入国ができるようになった。3階はフードコートやコンビニ(ファミリーマート)、タイ式マッサージなど出発までの時間を有意義に過ごすための施設が用意されている。
2階は到着階で、到着免税売店、ホテルインフォメーション、レンタカーカウンターなど諸外国の空港に引けをとらない充実した施設がある。到着ロビーは時間帯によっては混み合っているが、ツアーバスやハイヤーは2階、タクシーや市内行きのバス乗り場は1階、そして将来的には地下に鉄道が乗り入れるので、到着客は3フロアに分散され、人混みが集中しない構造だ。
また、ターミナル内のあちこちに案内板があるほか、「エアポートヘルプ」と呼ばれるデスクが設置され、案内書、案内パンフレットも用意されているので、迷うことなく空港内を歩けるようになっている。
なお、気になる7階のオブザベーションデッキだが、室内で二重ガラス、しかも二枚目のガラスまで距離があったり障害物も多かったりと、撮影に適していないばかりかウォッチング環境も良好とはいえないのが非常に残念な点である。
3.未来的なコンコースショップ関係も充実
ターミナルから伸びるコンコースはAからGまで7つ。コンコースA、Bが国内線、CからGまでが国際線、さらに出発、到着はフロアが完全に分離されている。国際線出発の場合、ターミナルビルから出国手続きを完了するとコンコースを歩いてゲートヘ向かうが、王国らしくプミポン国王や家族の写真が大きく掲げられたコーナーや、宗教的なオブジェが展示され、このあたりで記念撮影をするタイ人を数多く見かけた。
また、コンコースには他の主要国際空港と比べても遜色ないほどの免税店、高級ブランド店、電器店などがずらりと並び、タイシルクの土産店として名高いジムトンプソンも軒を連ねている。
食事や飲酒ができるエリアには、ハンバーガー店からラーメン店、「酒バー」という名の和食店など、彩り豊かな店舗がそろっている。乗り継ぎで時間がある旅客は、トランジットホテルで休息を取ることもできるし、出発前のひと時をタイ式マッサージを受けながら過ごすこともできる。
到着フロアは一部未完成の部分があり、コンクリートがむき出しになっていたり、天丼の配管が露出している部分もあったが、こちらにもコンコースがあり、またバゲージターンテーブルエリアにも到着免税店や両替所、ATMなどが設置されていて便利だ。
各ゲートヘ伸びるコンコース内はガラス張りの精円形の空間となっており、歩いていると近未来の空港にいるような錯覚さえ感じる。もちろんゲートヘ到着するまでのルートにはエスカレーターやスロープが設置されていて、階段を使う必要がないバリアフリー構造となっている。この広いコンコースのお陰でボーディングブリッジの数も多く、デビューを待つ巨人機A380対応の搭乗口だけでも5か所が用意されている。
なお、現在のところボーディングブリッジの数には充分余裕があるが、タイ・エアアジアやオリエントタイ航空といったローコストエアラインはボーディングブリッジを使用せず、オープンスポットまでバスで移動するというのも興味深い。
ターミナルビルに隣接したカーパーク横には、世界一の高さを誇る円形の管制塔と空港当局のビルがあり、空港の運用を支えている。
また、カーパークの近くには世界的チェーンのノボテル・スワンナプーム空港ホテルがある。その他、
敷地内には大型貨物エリア、タイ国際航空の大型ハンガー、整備施設などの関連施設が並び、名実ともにタイの新しい玄関口としての陣容を整えている。
このスワンナプーム空港の開港については、オープンが予定より大幅に遅れたことや、タイで発生したクーデターと時期が重なったため、日本ではあまり報道されていない。
しかし、今回訪れた限りではクアラルンプール、シンガポール、香港などといった他のアジアの大規模エアポートに引けをとらない設備水準の空港であるとの印象で、旧空港のドンムアンと比べれば雲泥の差といえる。タイを訪れる機会のある方には、ぜひこのスワンナプーム空港をじっくりと楽しんできていただきたい。
4.撮影ポイントの現状
ドンムアン空港は軍民共用だったため、基本的に外周からの撮影は禁止されており、かろうじてターミナルビルのガラス越しに撮影することができる程度であった。しかし、スワンナプーム空港は今のところ問題なく撮影することができるようだ。あえて「今のところ」と述べたのは、現在空港がオープンして間もないため地元の人がこぞって空港周辺道路に車を停めて飛行機ウォッチングを楽しんでいるからいいものの、いつまでもこの状態が続くか保証がないからだ。
今回、1日ランウェイエンドでの撮影を試みたが、一度だけ空港警察に職務質問とパスポートチェックをされただけで、撮影を差し止められるようなことはなかった。しかし、タイの政情などを考えるといつでも問題なく撮れます、とは断言しきれないのが正直なところである。ドンムアン時代のことではあるが、エアバンドを聴いていただけでスパイ容疑をかけられ、拘束された日本人もいたので、民間空港とはいえエアバンドは聴かないほうが無難だろう。
この記事を見た人は、一緒にこんな記事も読んでいます!