目次

アジアのハブ空港争いに日本は遅れをとっているのが現状

1.なぜハブ空港が必要なのか
アジアのハブ空港争い
アジアだけを見ても、シンガポール、韓国、中国は、拠点となる国際空港のハブ空港化を明らかに意識している。少なくとも、ハブ空港には2つの意味がある。1つは、ある特定の航空会社が運航の拠点とするハブ空港である。たとえば、成田空港は、JALやANA、デルタ航空のハブ空港である。

もう1つは、広域的な航空網をもち、その国や地域の玄関となり乗り継ぎ需要も摘み取っていくハブ空港である。一般的にハブ空港と言えば、後者の意味で用いられることの方が多い。シンガポール、韓国、中国が目指すハブ空港は、明らかに後者である。日本は、この意味でのハブ空港をもつことを考えてきたのだろうか。

日本経済は戦後から20世紀末にかけて、アジアにおける経済成長のトップ・リーダーであった。当然、日本を目的地とする旅客を捌くことで空港の容量は限界に達し、そのたびに機能拡張を繰り返してきた。さらに日本はアジア大陸の東端に位置し、その好立地ゆえに、アメリカの航空会社は成田空港をアジアのハブ空港としてきた。

実際、成田空港には北米、欧州、アジアなど世界の全方面に向けて、広範なネットワークが構築されている。この点で、仁川空港よりも優位な国際線のハブ空港である。しかし、仁川空港が目指すようなアジアのハブ空港とはなっていない。

バブル経済の崩壊と阪神・淡路大震災とともに、港湾の国際競争力が著しく低下したことは、日本の政策当局にとってはかなりのショックであっただろう。空港についても、アジア諸国の経済成長とともに台頭してきた巨大空港、特に隣国の仁川空港の成長を見せつけられてしまった。ようやく2006年になって、アジア・ゲートウェイ構想が安倍政権のもとで立ち上げられるに至った。やっとハブ空港の存在意義に気がついたのである。

一般的に、その地を目的地とする直行便需要の強さとは、空港が所在する都市や地域に経済力や文化・芸術的魅力があり、地域自体に集客力があることを指す。直行便需要が強い空港はハブ空港になりやすく、空港経営も安定する。乗り継ぎだけを目的とする需要については空港間の代替が利くため、近隣のハブ空港の方が低コストでサービスも利便性も良ければ、そちらにハブの地位を奪われる可能性が高い。

すなわちここで大事なのは、直行便需要が十分にあり続けるか、つまり国の経済が成長し続け、魅力を保つことができるかということだ。ところが今、アジア諸国が目覚ましい経済成長を見せるなかで、日本(東京)の相対的な地盤沈下が懸念されているのだ。

現代では航空機の性能が向上し、日本を飛び越えて中国やアジア各地に行けるようになった。アジアの東端に位置するという、これまでの日本の好条件が揺らいできている。受け身型の空港政策では、もはや日本経済の再生や発展に寄与できない時代に突入している。

アジアの経済成長と航空自由化というグローバルな視点で見れば、日本に強力なハブ空港を構築できなければ、国の経済の底上げどころか、かつて繁栄を証歌したアジア極東の貧しい小さな島国になってしまう。日本は危機感をもたねばならないのだ。

まずは国内線と国際線の乗り継ぎをよくしたハブ空港が必要であろう。そして、できるだけ多くの就航都市をもち、かつ増便が可能な航空ネットワークを構築することが望ましい。このようにして成長するアジア市場に日本企業も積極的に進出していき、ヒトとモノの往来を盛んにする。乗り継ぎ需要も摘み取れれば、航空ネットワークが充実し、さらなる直行需要の喚起につながり、ハブ空港としての機能が一層増すのである。

この意味で、ハブ空港をもつことは、日本に居住する人々の海外渡航の利便性を高めるだけではなく、たとえばハブ空港が東京にあることで、世界からヒト、モノが東京に集約され、東京が金融のハブ、研究開発のハブ、アジアにおける地域統括本部を置く都市になることにつながる。訪日外国人も乗り継ぎ利便性を享受し日本各地へ行きやすくなる。これらにより、アジア経済の成長、世界経済の成長の恩恵を日本全体に波及させることができるようになるのである。


2.国際航空貨物の空港競争
アジア各国の空港建設の現状と今後の計画を見ると、24時間運用の空港が大規模に運用されており、将来に向けてさらなる拡張を計画する空港もあり、アジアの中心的なハブ空港の地位獲得に向けて国をあげての取り組みが進んでいる。

この大規模空港競争の背景には航空機性能の進歩もある。北米の主要都市から成田空港に飛来する航空機には航続距離の制約により、アジア各都市へ直行できないものもあったが、航空機性能の進歩で航続距離が延び、シンガポールからニューヨークまでの直行便が可能になるなどアジアの国々にとっては、O&D (Origin & Destination)需要に直行便で対応することが可能になった。

これによか空港施設面や経済面のみならず、航空機の技術革新によっても成田空港と発展するアジアのハブ空港との競争はさらに激化している状況に置かれている。

また人だけでなく国際航空貨物の流動が増加していることもアジア各国でのハブ空港競争の背景にある。東南アジア諸国連合(Associationof SoutheastAsian Nations. ASEAN) 各国や中国のIT企業を中心として、高付加価値で価格負担力の高い製品を最適な価格品質で製造することを追求するため、部品の組み立てから製品化まで国を超えた水平分業が進み、速達性を担う航空貨物の輸送ニーズは近年急拡大しており、このニーズに応えるべく各国で大規模貨物施設を持つハブ空港の建設が進んでいるのである。


3.国家戦略としてのハブ空港
四方を海に囲まれたわが国は、高度経済成長時代が終わり、少子高齢化による人口減少時代を迎えている。日本の製造業は、コスト面の抑制から工場を東南アジアなどの海外に移転し、サプライチェーンマネジメントを活用しながら部品の製造から組み立てまでの地政学的・時間的最適化を進めている。欧米の金融ビジネス業の中には東京でなく香港やシンガポールをアジアの拠点とする企業が増えている。これまでのアジアのビジネス都市のナンバーワンともいえる東京の位置づけは、国際フォーラムの開催数の伸びの鈍化など、他のアジアの都市に大きく追い抜かれていってしまっている状況にある。

日本の港湾の例で考えてみたい、たとえば神戸港は従来、中国をはじめとするアジア諸港からの貨物を集積し北米、欧州などの基幹航路に積み替えるというトランシップ港としての役割を果たしてきた。

近年、アジアの港(香港、上海、釜山等)の整備が進み、これら人件費を中心に荷役作業料金や利用料の安い港にトランシップ港が移っている。現在の海運航路のメインストリートは、上海や釜山をはじめとした日本海側に移転し津軽海峡を経由して北米航路に太い動脈としてつながっている。1980年代までのメインストリートであった、神戸・横浜・東京港をはじめとした太平洋航路は、高い(利用料)、短い(運用時間)、狭い(ドック)ため、神戸の震災で港湾施設が一時期使えない状況となったこともあり、海運物流の大動脈が釜山を中心とした日本海側に移転したのである。その移転した流れは、神戸港を震災後再整備した今でも戻らない状態にある。

改めて空港を考えてみると、アジアにおける日本の国際競争力強化のためには、単なる空港施設の整備だけでなく、海外の利用客を含めて利便性の高い空港として活用していく必要がある。

開港から約30年になる成田空港は、2本目の滑走路の延伸が完了した後の容量の拡大は地元との協議を経て、現在の年間20万回から22万回に拡大するとされている。また現在は地元との協議で深夜23時から翌朝6時までの間は離発着ができず、国際空港でありながら24時間運用ができない状況にある。

一方、羽田空港は、都心部から約10km強、車で約20分の距離にあり、再拡張され4本の滑走路が整い、24時間運用も可能である上、川崎や京浜島といった空港周辺地域での関連施設拡張に可能性を残している。羽田空港の容量をインフラ面からもソフト面からも拡充させることと、成田空港との適切な役割分担を行う中で、近隣アジア諸国の大規模空港に伍していける空港として活用できる可能性が高い。


4.日本の国際競争力強化のために
国際空港の場合、ハブ空港になれるかどうかが肝要である。一般的にハブ空港とは、多くの就航都市をもち、多頻度の就航便がある、すなわち需要が大きい空港のことである。多くの太い航空ネットワークをもつ空港ほど、ハブ機能が高く競争力が強い

ハブ空港は、多くのヒトやモノを世界各地から集約するため、国内で経済の底上げ効果を生み出す。このため世界でも、アジア地域でももちろん、ハブ空港競争が繰り広げられている。民営化してハブ空港を目指すヨーロッパの空港もあれば、国が最大限の介入をしてハブ空港を目指すアジアの空港もある。

ハブ空港化の手段は様々だが、空港の競争力を高めることが目的だという点では、一致していると言える。ハブ空港の競争力として求められるのは、広範で太い航空ネットワーク、発着容量、24時間運営、地理的位置づけ、都心へのアクセス、廉価な使用料、より良いサービス、乗り継ぎ、利便性の良い施設、それに空港周辺施設の整備である。

最も重要なのは、広範で太い航空ネットワーク(多くの就航路線網と頻度)、つまり空港が立地する地域に経済力や文化的魅力があり、旅客や貨物の需要があるということである。

需要を喚起する地域の特性が弱いならば、航空会社に選んでもらえるように、空港使用料の体系やサービス、乗り継ぎ利便性の良い施設などといった要素を、マーケティング戦略によって最適化することが不可欠となる。

特に小国のなかで、ハブ空港を国の基幹事業として位置づけている国が多い。その先発組としてはシンガポールとオランダがある。シンガポールやオランダは小国と言っていいが、経済・観光産業を支える国家プロジェクトとして、ハブ空港建設を戦略的に位置づけ、市場志向型のマーケティング戦略を実践してきた。

世界の花市場の6割を占めるオランダは、ローマ帝国時代より海洋貿易で栄えた国であった。オランダは欧州の貿易中継点としての地位を死守するため、ロッテルダム港とともにアムステルダム・スキポール空港の整備に多大な力を注いできた。

アメリカのオープンスカイ戦略に、ヨーロッパでいち早く反応したのもオランダであった。1978年、アメリカとの航空自由化協定により、航空会社はより弾力的な運賃や輸送力を実現することが可能になった。

オランダ=アメリカ間の国際便が増加し、スキポール空港の航空ネットワークは拡大した。これを見て遅れまいと、隣国のドイツやベルギーがこぞってアメリカと航空自由化協定を結んでいる。航空自由化によって参入障壁がなくなるため、新たな航空会社の空港への就航を促し、空港の路線網の充実化、さらにはハブ空港化が促進されるのである。

スキポール空港は成田空港の2倍以上の土地(2678m)をもち、滑走路は6本、うち横風用(強風時に臨時使用される滑走路)が1本である。旅客数は国際線旅客で世界4位、国際貨物で世界8位である。市内へのアクセスも鉄道で30分以内、タクシーで35分と優れている。1人当たりの着陸料はヒースロー空港やシャルル・ド・ゴール空港に比べて高いが、それでも日本の国際3空港の8割程度で、航空ネットワークは200都市に及び、成田空港をはるかに上回る。

空港域内にはホテル、トレード・センター、貿易関連企業向けの賃貸ビルが列を連ね、バスが空港域内を循環する。ヒト、モノ、ビジネス、店舗、エンタテインメントが空港域内に集約される「エアポート・シティー」というコンセプトを実現させ、発展させることがスキポール空港のヴィジョンである。これを真似る形で、韓国の仁川空港は建設されている。

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