エアラインパイロットをめざす人たちは、JALやANAの自社養成パイロット要員の採用試験に合格すれば、それで目標達成というわけではありません。入社後は、すぐに厳しい訓練が待っています。
たとえばJALでは、羽田で8カ月間の座学講習を受けたあと、アメリカ・カリフォルニア州のナパで1年10カ月にわたる訓練に臨み事業用操縦士や計器飛行証明などの資格を取得。そしてその後は、自分がどの機種のパイロットになるかの選択を迫られることになります。
機種に専念し、もてる技量を100%発揮パイロットの操縦免許には種類が多く、軽い順から述べると、まず自家用操縦士の免許がある。
しかし、免許証に書かれた条件には、地上単発か多発、あるいは水上単発か多発をはじめとして飛行機の種類が特定されている。単発とはエンジンが一つ、多発は二つ以上、水上は水面から離着水する飛行機のことである。
次に事業用操縦士免許がある。これは写真撮影、測量、遊覧などの事業を目的とするもので、航空機の区分は自家用と同じである。共に飛行機のメーカーや型式は原則として問われない。例えばセスナやパイパーなど、実際には操作要領やチェックリストは異なっていてもOKというものだ。乗用車ならトヨタ、日産、ホンダなどどの車種でも乗れるのと同じである。しかし、車にもAT限定などとあるように、飛行機にもそれがある。いわゆる限定免許である。
多くの乗客を乗せて安全に目的地まで飛行する必要のある旅客機については、その機種ごとに免許が発行される。その理由は、通常操作や緊急操作、それにチェックリストをしっかり理解し、加えて他機種との混乱を防止するためである。
この限定免許の基礎となるのは事業用操縦士免許、そして機長としての業務のためにはATRと呼ばれる定期運送用操縦士技能証明書で、それをベースとして機種ごとに訓練や審査を通して操縦が許される限定条件が加えられる仕組みである。
免許以外の型式は乗務することができない。
では、同時に2機種以上を乗務することはできるのか。答えはYESである。JALでも一時期、ボーイング727とDC8などと2機種乗務が行われていた。
つまり、航空会社の判断で、理論的には限定免許として国土交通省から認可された航空機ならどれでも飛べるという性格のものである。しかし、2機種以上の乗務となると技量管理が大変で、個々のパイロットへの負担も大きい。そして何よりも混乱してミスを犯す危険性があるので、1970年代初めからは行われないようになった。
さて、ここで問題は、同じ型式でもシリーズがたくさん増えた場合はどうなるかということである。例えばDC8の場合、初期の30、50シリーズや62シリーズ、それに胴体を11メートルも延長した61シリーズなどがある。正解は、そのどれかで限定免許を取得すれば全て乗務できる。
一方、ボーイング747では100~300シリーズと400シリーズでは仕様が3人乗りの在来型から2人乗りのグラスコックピットへと変わったので、機体やエンジンが同じでも、それぞれ別の限定免許が必要となってくる。
エアバスの場合、A320から330、340、350XWB、それに超大型機の380まで、コックピットの仕様や操作手順はほぼ同じで、メーカーも機種移行のための訓練は2週間もあれば可能とするメリットを売りにしているほどだ。しかし、機種ごとに大ききや装備品などの違いがあるため、シリーズとしては認められず、それぞれの限定免許が必要となっている。
一方、同一機種でも胴体などを延長したストレッチタイプが新たに導入された場合はOKだ。
常識的には、航空会社はストレッチタイプは操縦操作上大きな違いがあるため、多少の訓練は行うと思われるが、制度的には不要とされている。
ライン訓練で実戦を学ぶ
パイロットを養成する訓練にはさまざまな過程がありますが、
機種ライセンスを取った人たちがいよいよ実際に乗客を乗せて飛ぶという前にライン訓練というものがあります。
ライセンスを取得しても、それだけではお客さまを乗せて飛ぶことはできません。お客さまを乗せて目的地へ行く場合に、天候や乗客数などからどの高度とルートで飛ぶのが最適かを考え、搭載する燃料の量などを決めます。そういうフライトの組み立てを1から教えたり、お客さまを安全に目的地まで運ぶためのベルトサインの取り扱いなどを習得してもらいます。
ライン訓練に要する期間は6カ月。そうした厳しいトレーニングを経て、はじめて副操縦士としての任務に就けるわけです。
もっとも、パイロットは1機種しか操縦できないとはいっても、生涯ずっと同じ機種しか経験できないわけではありません。
昔から国際線旅客機の機長に憧れる若者は多いが、機長になるのは並大抵のことではない。
副操縦士になるまでに5年、副操縦士になってから10年以上もかかるといわれ、晴れて機長になれても、その人生はまさに訓練と審査の連続となる。
機長になるには、おもに二つの道がある。ひとつは航空大学を卒業して航空会社に入る方法。航空大学の修業期間は2年4か月。航空会社に入ってからも、プロパイロットとしてのより高度な訓練が2年以上続く。
もうひとつは、大学を卒業後にJAL、ANAなど航空会社の自社養成パイロットの採用に応募する方法だ。JALでは東京とアメリカのナパで基礎訓練を受け、事業用操縦士と計器飛行証明の資格を取り、副操縦士の昇格訓練に入る。
副操縦士になると路線飛行を7~8年経験し、総飛行時間が3000時間以上、定期運送用操縦士の学科と実地試験にパスしたら、機長昇格訓練の予備課程に入る。
この後も厳しい訓練が続き、最終的に会社と航空局の審査に合格すると晴れて機長になれるわけだ。
機長になってからも、訓練と審査の連続で、まずは、運航するすべての路線資格を取得していかねばならない。 次に、シックスマンスチェックという6か月ごとに実施される定期技能審査がある。これはシミュレータを使用した技量審査や口頭試問、筆記試験などだ。シミュレータを使ったLOFT(ライン・オリエンテッド・フライト・トレーニング)訓練も6か月に1回ある。
技量審査では、エンジントラブル、緊急降下など緊急時の操作が審査され、LOFTでは、さらに複雑なトラブルの対応を訓練する。 さらに、半年に1回の航空身体検査があり、ここで基準を下回ると、即刻乗務停止になる。つまり、機長のライセンスの有効期限は6か月しかないのだ。
このように、機長には、たえず訓練と審査が課され、確かな技量、緊急時の的確な判断力、自己管理できる精神力が求められるのだ。
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