国際化するサプライヤー
数多くの部品から構成された航空機を生産するには、多くの工程が必要になる。なんといっても面倒なのが、客室内の艤装である。与圧される胴体には、おもな開口部としてはドアしかなく、配線や配管などの艤装を行なうには人力でやるしかないのが手間となっている。
2006年秋に引き渡し予定だったエアバス社の大型旅客機A380が、乗客用娯楽装置(IFE:In Flight EntertainmentSystem)の配線に時間がかかるという理由で引き渡しが2年も遅延することになり、エアバス社の経営に大きな影響を与えたことは記憶に新しい。
航空機は多くの下請け会社(サプライヤー)からコンポーネントや部品が納入され、最終的に航空機メーカーで総組み立てが行われる。サプライヤーも最近は国際化しており、世界各国から品質がすぐれ、価格の安い部品が調達されている。日本は重要なコンポーネント供給国となっている。
各国で分散して生産
B767やB777の主翼はボーイング社で製作される。主翼は比較的構造が簡単なので、リベット打ちなどかなりの部分が機械化されている。垂直・水平尾翼や胴体は海外で生産され、船で最終組み立てが行われるアメリカシアトルのボーイング社エパレット工場に運搬される。
尾翼が取りつけられた後部胴体と前部胴体が中央胴体に取り付けられた主翼と結合され、航空機の外形が完成する。この時点で前脚と主脚も取り付けられるので、これ以降、航空機は工場内を移動することが可能になる。
現在は機体の周りに足場を組み、生産工程が一段落すると足場を外して次の工程に移るが、2008年に引き渡しが開始されるB787は、1分間2インチといった極低速度で連続的に機体を移動させ、ちょうど自動車工場の組み立てラインのように生産することが計画されている。
外形が完成した機体にはエンジンとナセルが取りつけられ、胴体内部で艤装工事が始まる。操縦室内の艤装、油圧系統や燃料系統の配管、電気系統の配線、客室へのギャレーや洗面所、窓ガラス、内装パネル、手荷物収納庫などが取り付けられる。
座席については、最終組み立てで取りつけられることもあるが、航空会社への引き渡しが終わったあと、空荷で各航空会社の整備工場まで飛び、そこで座席を取りつけることも多い。
構造部位
スピリット、GKNを追いかける日本の3重工
胴体・主翼などの構造部位メーカーは、スピリット・エアロシステムズとGKNが大手。 これに日本メーカー、レオナルドなどが続く。スピリットは英国のエアバス工場を、GKNもフルトンのエアバス工場の一部を取得したほか米国にも工場を持つなどしてボーイング、エアバス双方とビジネスを行なっている。近年はコンポジット化、デジタル化、MROへの展開などが鍵だ。一方の窓も欧米が強い。将来、液晶などを使ったバーチャルな窓となれば業界も変わる可能性がある。
降着システム
強いのはコリンズ、サフラン
降着システムではコリンズ・エアロスペース、サフラン・ランディング・システムが大手だが、近年はドイツのリープヘル、カナダのエルー・ドゥヴテック、住友精密工業なども力をつけてきている。アンチスキッド・ブレーキやカーボン・ブレーキでは、ハネウェルやメギットなどが大手。
推進機関
大手3社の寡占化が進行
ナセル、カウル、パイロン、スラストリバーサーなどは、コリンズ(旧UTC)、スピリット、サフラン・ナセルなど大手で寡占化している。このためエアバスは2017年末、ボンパルディアを調達先に選定した。APUはハネウェル、UTCが大手でこちらも寡占化。このため2018年6月に、ボーイングはサフランとAPUのJVを設立することで合意している。APUは将来的には燃料電池への代替可能性があり、IHIなどが開発中。プロペラはUTCとGEアビエーションが大手。
キャビン
成長分野につき新規参入組も
成長が期得されるのがキャビンで、座席の場合は新造機向け以外にリファービッシュ需要もあり、大手に加えて近年はLCC向けなどで中堅メーカーも実績を伸ばしている。また、リファービッシュ需要ではSTAerospace/天
龍工業など新規参入もみられる。IFEも新規参入が増え、デジタル化、UX、モニタリングなど、先進的技術開発も取り組まれている。
フライトデッキ
デジタル化とネットワーク対応が鍵
フライトデッキは従来の連携型システム(LRU)から統合化アビオニクス(IMA)へと発展しており、コリンズ、タレス、ハネウェルなどに寡占化。連携型システムを構成する多くの機器、システムは、多数のメーカーが製品を供給している。また、HUD、EVS、SVS、コネクテッド、次世代航空管制など先進技術開発が活発で、デジタル化、ネットワーク化が進展中。
アビオニクス
ボーイングに内製化の動き
アビオニクスは通信、航法、機内ネットワーク、サーベイランスなどの機器や、ディスプレイ、各種計器など多くの製品からなり、民間・防衛双方で世界700以上の企業が事業を行なっている。ただし、コリンズ、タレス、ハネウエルなと、大手は寡占化。2017年夏、ボーイングはこれに対抗して自社内にアビオニクス開発の新部門を設立した。
操縦系統
FBW時代のシステム供給
FBW(フライ・パイ・ワイヤ)などで知られる操縦系統は、フライト・コントロール・システム、操舵制御システム/アクチュエーション・システム、モニタリング・システムなどから構成される。英国BAEシステムズ・プラットフォーム・ソリューションス、コリンズ、タレスなどが代表的メーカー。アクチュエーション・システムはムーグなどが大手だ。
油圧システム
電動化の波で業界変化中
各種制御に不可欠な油圧システムは、小型軽量化を目的とした高圧化やEHA(電気油圧式)、EMA(電気機械式)などに代表される電動化が進展。米国のパーカー、イートン、GEアビエーション、リープヘルなどが大手。一方、空圧システムは減る傾向にあり、787ではエンジンの一部を除き空圧システムは使われていない。
空調システム
787方式のeECSも手掛ける
空調システム/ECS(EIectricControl System)は従来、エンジンからの抽気を利用していたが、787のeECSは抽気を用いないシステムだ(eECSは複数メーカーが手掛けている)。米国のハネウェル、コリンズ(UTC)、欧州のリープヘル・フランスなどが主なメーカーで、ロシアはTeploomennikが供給している。
燃料システム
エンジンメーカー系列も存在感
燃料システムは噴射システム、ポンプ、アキュムレーター、ノズル、燃料パイプ、燃料タンクなどから構成される。これらの機器はイートン、パーカー、コリンズなどが代表的なメーカーである。また、エンジンメーカーも手掛けており、GEアビエーションは燃料ノズルを3Dプリンティング/AM(Additive Manufacturing)で製造している。
電気系統システム
電源関連だけで250社が関与
電気系統システムは、航空機のMEA (More Electric Aircraft)化の進展でその重要性が増しており、電源システム、配電システム、バックアップ用バッテリー(Li-Ionなど)、ワイヤハーネスなどがある。今後は分散化、最適化が課題。コリンズ、ECE、タレス、GEアビエーションなどが代表だが、電源関連だけでも250社以上が関与している。
ジュラルミンから複合材へ
航空機の構造に求められる特性はなんといっても軽くて強いこと。この目的のために昔から新しい素材や加工法が工夫されてきたが、最近は金属材料から複合素材へのシフトが大幅に広がった。
まず航空機に使用される金属材料として、最も一般的なものがジュラルミンを筆頭とするアルミ合金である。比重が鋼の1/3で比強度が高いので、外板や構造部を中心に広く使用されている。よく使用される合金としては、超ジュラルミンの2024合金、超々ジュラルミンの7075合金がある。
いずれも雨風にさらされる外板に使用される場合には、耐食性を高めるために、両面に純アルミの薄い層を熱間圧着で被覆している。このような板材はアルクラッドと呼ばれる。
その他の合金
マグネシウム合金も比重が1.8でアルミ合金の2/3しかないが、耐食性があまりすぐれていないので民間機ではもっぱら鋳物などに使用されている。
チタン合金はアルミ合金よりも重さが1.6倍あるが、引っ張り強度は2倍もある。他の合金にくらべて耐食性や耐熱性が格段にすぐれているので、最近は広く使用されるようになった。欠点としては材料の価格が高いことと加工が難しいことがあげられる。当初はエンジン関係の耐熱材料として使用されていたが、加工方法が進歩したので構造部材やボルトなどにも多く使用されるようになった。
今後は複合材が主流に
近年多用されているのは、複合材料としてのグラスファイバー、カーボンファイバーそしてケブラーである。最初は強度が求められないフェアリングやカバー類の二次構造に限定して使用されていたが、しだいに実績を重ねて尾翼や床材などのボディ強度を担う一次構造物にも使用されるようになった。
また2008年に就航予定のボーイングB787は主翼、尾翼、胴体のすべてがカーボンファイパーで製作された世界最初の全複合材料製大型旅客機である。材料のカーボンファイバーには、日本の繊維会社が製作したカーボンファイパーが使用され、主翼や胴体の設計製作には日本の重工業会社が参画している。従来のアルミ合金製の構造に較べて約30%の軽量化となり、経済性にすぐれた機体となっている。
次世代機に使われている炭素繊維複合材がスゴい
「あの鉄のかたまりが空を飛ぶなんて、信じられない」
よくそんなふうに言う人がいるが、飛行機はけっして「鉄のかたまり」などではない。本当に鉄のかたまりでつくったら相当に頑丈なものが完成するだろうが、それでは重すぎて、飛ばすどころか宙に浮かせることもできない。
飛行機の設計では「軽量化」というのが重要なキーワードになる。その軽量化のための工夫として、これまではアルミ合金が機体のメイン材料に使われてきた。そして最近の新しい機種に採用されはじめたのが、軽量で強度が鉄の約10倍という炭素繊維複合材だ。ボーイング787は機体全体の50%が、エアバスA350XWBでは52%が炭素繊維複合材でできている。
炭素繊維複合材は、アクリル繊維を温度約1000度という特殊な条件で焼いてつくった直径5ミクロンの炭素繊維の糸をたばね、樹脂とともに重ねたものを焼き固めて製造する。「軽くて強い」特徴を生かしてゴルフクラブのシャフトや釣りざおなどに利用されてきた素材だ。近年ではF1マシンのボディ素材としても活用されている。
胴体は円形につくられる
大型旅客機は高度10000m付近の高空を飛ぶ。このあたりの空気の密度は地上の約2分の1くらいしかないので、客室には与圧が行われる。与圧とは、客室に適量の外気を送り込むことである。外気はジェットエンジンの力を借りて送り込まれる。ファンを使ってエンジン内に取り入れた空気の一部を取り出し、与圧用の空気にまわしている。当然この空気は燃焼前のものである。
胴体の断面はできるだけ円形に近い形につくられる。風船が丸くふくらむように、円形は最も膨張に強い形だからである。内から外に働く力はできるだけ均等にしておいたほうがいい。これが四角や三角であれば隅に力がかかり、そこを補強しなければならない。
だが、円であれば均等に薄く補強すればいいので、少しでも機体を軽くつくる必要のある飛行機は必然的に円形を選ぶことになる。
高空を飛ぶ必要のないセスナなどは、四角い断面をもつものがある。これは、与圧をする必要がないからである。
胴体の材質はアルミニウム合金が使われる。アルミニウムは強くて軽いので、機体をつくるのにむいているからだ。最近では、炭素繊維などを用いた複合材も、使われはじめた。
旅客機のほとんどはモノコック構造
素材がアルミニウムであれ複合材であれ、胴体はセミモノコック構造をとる。セミモノコックとは、骨組みと外板が重量を支える構造のこと。反対に、骨組みだけで機体を支える構造はトラス構造と呼ばれる。現在空を飛ぶ飛行機のほとんどがセミモノコック構造である。セミモノコック構造のほうが軽い機体をつくることができるからだ。
B747-400型機(国内線)の場合は、2階客室の最前方に操縦室があり、その後方は客室(普通席)になっている。メインデッキ(1階客室)の最前方にあるレドームに気象レーダーを装備し、その後方全体が客室となっている。普通、前方14列がJクラス(JALの場合。ビジネスクラスに相当)の80席で、その後方からすべてが普通席となっており、2階席部分を合わせると466席である。この座席数は変更される場合がある。
客室の床下部は、前脚の収容室、電子器材室、前方貨物室、翼の主翼の中央部、胴体主脚の収納室と続き、その後方には貨物室がある。旅客の手荷物などは、標準型のコンテナに収納して効率よく搭載するしくみになっている。
機体の強度を高めるセミモノコック構造とは
機体の設計では「軽量化」が重要なキーワードになる。その軽量化のための工夫として機体のメイン材料に使われてきたのが、アルミ合金だ。一般には「ジュラルミン」と呼ばれ、アルミニウムや鋼、マグネシウム、マンガンなどを混ぜ合わせてできている。特徴は、鉄などに比べて軽くて丈夫なこと。旅客機の材料にはとても適した合金である。
旅客機のボディの外板には厚さわずか1~2mmのアルミ合金が用いられ、その薄い材料で機体の強度を最大限に高めるため、頑丈なフレームや縦通材(ストリンガー)を組み合わせた「セミモノコック構造」で設計されている。つまり、骨組みに薄いアルミを貼った提灯のような構造だ。
最新のボーイング787やエアバスA350では、従来のジュラルミンに代わり、金属よりもはるかに軽くて強度も高い炭素繊維複合材が機体構造に多用されるようになった。この炭素繊維をベースにした複合材を利用することで、従来のような細かなパーツではなく、大きな1枚板の組み合わせでボディを製造できる。
そのため、たとえば窓を大きくすることができるようになった。金属製のモノコックボディだと、骨組みがない部分に窓をつくる必要があり、設置できるスペースが限られていた。その点、炭素繊維複合材製のボディは壊れにくい1枚板で構成できる。787の窓は縦に延び、大きさは従来機の1.3倍に拡大した。
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