1.飛行機が航空管制に用いる無線には3つの種類が存在
飛行機が航空管制に用いる無線には3つの種類が存在
このうち最も遠くまで電波を届けるのが「HF(短波)」だ。
HFのアンテナは747クラシックの頃までとても長く、さらに旧式機ではワイヤー式のアンテナが張られた。
「HFアンテナに洗濯物を干す」
航空管制に使われている無線機には、VHF(超短波。主に民間機)とUHF(極超短波。軍用機)、そしてHF(短波)とがある。このうちVHFとUHFはいずれも見通し距離(高度にもよるが約300km)しか届かない。そこで遠く洋上を飛んでいるような航空機との交信には、HFが使われている。
HFの電波は上空の電離圏や地表で反射することによって、VHFやUHFの電波よりも遠くまで届くからだ。
これら無線機のアンテナにはそれぞれに適したサイズがあり、一般には波長が大きい(周波数が小さい)ほど長いアンテナが必要になる。旅客機の胴体の上下には小さな翼のような突起があってプラモデルではいいアクセントになっているが、これはVHFのアンテナだ。これよりも波長が短いHFのアンテナはプラモデルでは省略されてしまうほど小さく、逆に波長が長いHFのアンテナは「洗濯物が干せる」と冗談をいわれるほどに長い。
たとえばボーイング初のジェット旅客機707は、垂直尾翼の先端から前方に向けて竿状のHFアンテナを伸ばしていたし、747クラシックは主翼先端から後方に向けてHFアンテナを伸ばしていた。いずれもなるほど、手が届くならば洗濯物を干したくなるような形だ。
さらに古い飛行機では、やはり洗濯物を干せそうではあるが、竿ではなくワイヤーを使ったアンテナを装備している。たとえば映画の影響でブームとなった零戦は、コクピット後方に立てた支柱と垂直尾翼の先端付近をワイヤーで結んでいる。これがHFアンテナである。古いプロペラ旅客機の写真でも、同じように機体のあちこちにワイヤーアンテナが張られているのを見ることができるだろう。
ちなみに747でも後期型の747-400では主翼端からHFアンテナが撤去され、垂直尾翼の前縁部分に埋め込まれるようになった。こうした垂直尾翼内蔵方式は、777や787でも踏襲されている。これら新しい旅客機ではもはや「HFアンテナに洗濯物を干す」という冗談は通じなくなってしまったのである。
2.YS―11の胴体下、ワイヤーアンテナ
HF無線機は、見通し範囲を越えた距離での通信に使われる。したがって737のように国内線を主に飛ぶような旅客機には装備されていない。
ところが同じく国内線で活躍した国産旅客機YS-11の古い写真を見ると、胴体の下などにHF無線機のワイヤーアンテナを確認できる。どうしてYS―11に長距離通信用のHFアンテナが装備されていたのだろうか。
たとえば那覇空港で撮影した南西航空(現JTA)のYS-11だが、胴体下にツノのように支柱を伸ばしているのが見える。ワイヤーアンテナは、この支柱の先端を結ぶように張られている。洋上飛行の多い南西航空ではHF無線機が必要なのかと思うかもしれないが、それにしては現在のJTA機にはHF無線機は装備されていない。
新千歳空港で撮影したエアーニッポン(現ANA)のYS‐ 11だが、やはり胴体下にHFアンテナがついている。同社は主にANAから委譲された地方路線を運航していたが、日本本土にもVHFが届かないエリアがあったのだろうか。
そこで音を知る整備士OBに話を聞いたことがあるのだが少なくとも戦後の日本では(つまり現代と同じような航空管制が一般化してからは)、最初から飛行場管制やエンルート管制にはVHFが使われており、また国内ではVHFが届かない場所はなかったという。
しかしYS-11はHF無線機を票準装備していた。それはYS-11が国内だけでなく広く海外に輸出することを狙った旅客機であり、そのためにはHFを標準装備とした方が有利だと判断されたためらしい。海外には、まだVHF通信網が十分に整理されていないエリアも少なくなかったのだろう。
そこで日本の航空会社が導入した機体にもHFアンテナが装備されていたが実際には使わないのに整備の手間や費用はかかってしまう。しかもこうしたアンテナは飛行中に被雷してダメージを受けやすい。つまり
必要のないHFアンテナはついていない方がマシということで改修プログラムが策定され、順次HFアンテナが撤去されていった。だから特に退役近くに撮影されたYS‐ 11の写真では、HFアンテナがついていないものが多いのである。
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