目次

787は新素材を導入してキャビンの環境や燃費まで向上した機種

1.787の導入で空の旅はどう変わった
従来のアルミ合金に代わるこの軽くて強い炭素繊維複合材を機体に使用したことで、燃費性能が20%向上したほか人に優しい機体が完成した。

たとえば構造上、旅客機がいちばん嫌うのが水分だ。キャビンに湿気が多いと、知らないうちに目に見えないところで水滴がたまって結露し、それが機体の錆びや腐食につながってしまう。金属疲労を起こせば、重大事故にもなりかねない。そのためこれまでの旅客機では、機内の空気は水分除去装置を通してから送りこまれ、キャビンはつねにカラカラに乾いた状態になっていた。

加湿ができないため、とくに疲れているときのフライトは要注意だった。欧米などへの移動で機内で長時間過ごすときには、ノドを痛めてしまうケースも。「キャビンはいつも乾燥しているので、乗務中は肌のケアなどがとても大変で」と嘆く客室乗務員も少なくなかった。

こうした状況を787は一変させた。金属と違って炭素繊維複合材は錆びる心配がない。キャビンを加湿することが可能なのである。2011年にANAが世界に先駆けて導入した787の初フライトで、キャビンに湿度計を持ちこんで計ってみたことがある。キャビンの湿度は常時25%程度を維持。10%にも満たなかった従来の旅客機に比べると、機内で過ごす快適度は大幅に向上したことを実感した。


2.787の導入でANAの路線に新たな変化が
787のローンチカスタマー (新開発の機種を最初に発注した航空会社)であるANAはここ数年、日本から未就航だった都市への新規路線の開設を進めてきた。最近では、2016年9月にカンボジアへの初の直行便となる成田-プノンペン線が就航。2017年2月からは成田-メキシコシティ線もスタートした。ANAが新規路線の実現に挑む背景には、何があったのか?

ANAはそれ以前にも、2015年9月にマレーシアの首都クアラルンプールへの直行便を13年ぶりに復活させた。また同年には旅行先としての人気が根強い、ベルギーのブリュッセル線を、16年ぶりの豪州乗り入れとなるシドニー線も就航。これら新規路線の実現を支えてきたのが、ボーイングの最新鋭機787だった。

機体全重量の50%以上が炭素繊維複合材でつくられた787は燃費効率に優れ、同サイズの旧型機に比べて20%も燃費が改善されている。長距離国際線を運航する場合、多くの燃料を必要とするため、それまではどうしても大型機に頼らざるを得なかった。大型機での運航となると、一度にたくさんの乗客が利用する路線でなければビジネスとして成立しない。結果、パリやロンドン、ニューヨークなど、いわゆるドル箱と呼ばれる路線にしか直行便を飛ばせなかった。

その状況を根底から変えたのが787である。200~250人程度の乗客数で長距離を飛ばしても、燃費がよくてコストを抑えられる787ならビジネスとして十分に成り立つ。日本から直接行ける都市がこの何年かで急増したのも、787による功績が大きい。

2013年1月のサンノゼ線(米国)や2014年3月のデュッセルドルフ線(ドイツ)、2015年7月のパンクーバー線(カナダ)など、ANAが787を活用して開設した路線は数多い。同社の広報担当も、「787はANAが世界に先駆けて発注・受領した思い入れの強い機材です。優れた機内快適性と高い燃費効率の利点を生かし、当社の成長戦略を担う原動力としてネットワークの拡大を図っていきたい」と話していた。

2016年に入ってからは、バンコク線(タイ)やデリー線(インド)にも787が登場。同年からは羽田-ホノルル線にも787を導入し、人気のリゾートへ快適なフルフラットシートでアプローチできるようになった。そして前述したように、2016年9月にはプノンペン線が、2017年2月からは日本からの最長路線であるメキシコシティ線も開設され、ANAのネットワークは拡充をつづけている。


3.787の導入に反対した整備士が賛成した理由とは
787の開発が発表されたとき、エアライン各社の技術陣のなかには未知の新素材を使用した機種の導入に慎重な意見も少なくなかった。炭素繊維複合材のサンプルを手に取ってみたことがあるが、その薄さと軽さに「こんなヤワそうな素材で機体の強度は大丈夫なのか?」と不安を抱いたほどだ。787の世界初導入に踏み切ったANAの整備エンジニアも以前、こんな話をしていた。

不安に感じたのは私たちも同様です。とくに心配したのが、素材にヒピが入ったりしたら、どうやって直すのかということ。そこで材料サンプルを持ってきて、叩いて壊してみようということになった。そうしてヒピが入った部分をどう検査し、修理すればいいかをみんなで考えていこうと。

ところが、ハンマーで叩いて壊そうとしても、自分の手が痛くなるばかりでいっこうに壊れない。それで『強度も大丈夫、これなら心配ない』と私たちも納得したという経緯があります。この画期的な新素材の開発で重要な役割を果たしてきたのが、東レなど日本を代表する繊維メーカーだった。

素材だけではない。787は主翼やボディの主要パーツの製造にも、三菱重工業や川崎重工業、富士重工業といった日本メーカーが大きく関わっている。トータルで見れば、部品の3分の1以上が日本製だ。ボーイングを取材で訪れたさいも、技術者たちは「メイド・イン・ジャパンのテクノロジーがなければ787の誕生もなかったよ」と一様に口を揃えていた

4.787をひと目で見分けられる方法
機体のサイズとしては、787は中型機のカテゴリーに入る767とよく比較される。全長は54.9mの767-300に対して、787は56.7mとほぼ同じだ。ただしボディの幅は5.75mあり、767よりも約1m広い。

顔つき(機首のライン)もシャープで、コクピットの窓に段差がなく、滑らかな曲線で構成された。これにより空気抵抗を小さくしているほか、コクピット内に入りこむ騒音も軽減している。787を簡単に見分けるには、左 右の主翼に装備されたエンジンに注目しよう。エンジン全体を覆っている外板(ナセル)のうしろ端が波を打ったような花びらの形をしている。これは「シェプロンノズル」と呼ばれ、エンジンの騒音を減らすための工夫から生まれた。

もうひとつの特徴は、柔軟性のある主翼だ。ウイングスパン(両翼の端から端までの長さ)が60.1m(767-300は47.6m)もある。軽くて強い炭素繊維複合材を採用したことで、主翼の大型化が実現したのだ。飛行中は主翼の両端が上に反り返って、優雅で滑らかな曲線を描き出す。飛んでいるその姿を地上で目の当たりにしたファンたちの口から、思わず美しいという声が漏れることも少なくない。

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