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客室乗務員が機内で担当する業務の決め方やパイロットとの裏事情

1.業務はアロケーション・チャートから始まる
客室乗務員達の仕事はオペセンに着いてから制服に着替え、客室乗員部に出頭するところから始まる。
個々人のメールボックスに入れられているインフォメーションやボードに貼られている注意事項に目を通してから、当日の便ごとにアサインされた机に円を囲むように座っていく。そして当日の便の指揮をとる先任客室乗務員の下に、お互いに挨拶と自己紹介が行われ、一枚の紙が全員に配られる。アロケーション・チャートと呼ばれる任務配置表だ。そこには、誰がどのDUTYをとるのかが書かれている。例えばAさんはF (ファースト・クラス)、BさんはC (ビジネス・クラス)、CさんはE(エコノミー・クラス)の後方のエリア担当という具合だ。

大型機ではドアの数も多く、緊急時のドア操作の担当をもとに、A1、B2、C1、D2・DUTYというように業務分担が決められ、加えて誰がギャレー(調理室)を専門に行うか、あるいはPA(機内アナウンス)は誰が担当するかなども細かく書かれている。

この任務配置表は各客室乗務員にとっては仕事上最大の関心事で、例えば自分の担当する場所の乗客数は少ないほど楽になるし、ギャレー・DUTYは裏方の仕事で面白くない、あるいはFクラスではどんな有名人と出会えるか等々、もちろん個人の考えはいろいろあるだろう。

このアロケーション・チャートの作成は、先任客室乗務員が当日の客室乗務員達の顔ぶれを見て、社歴、実績、そして全体から受けるイメージなどの要素をもとに行う重要な仕事だ。その結果、機内の乗客全員が満足できるかどうか、いわばフライトの品質がそのことによって左右されることになるのだ。

先任客室乗務員は他の客室乗務員よりも早く出社して、このアロケーション・チャートの作成に取りかかる必要がある。作成にかかる時間はその時のフライトの密度によっても異なるが、大体30分から1時間程度。なかには、事前に情報を調べて数日前から準備する者もいるくらいだ。このような事情により、作成作業は勤務時間外に行わざるを得ず、サービス残業となり、組合問題にもなっている。というのは、ショーアップしてから作業を始めたのでは、機側に着くのも遅くなり、とても定時出発はかなわないからだ。アロケーション・チャートによるそれぞれの担当業務への人選は、一般の会社のように組織の管理職が決めるのではなく、先任客室乗務員が責任を持って最良の結果を求めて行うのが、この仕事の特徴となっている。それゆえに先任客室乗務員の公平な人選、例えばFクラスやCクラスの担当を行きと帰りの便で変えたり、特定の客室乗務員にEクラスやギャレーばかりを担当させないようにするなど、グループ全員が納得し、力が発揮できることが求められているわけだ。

しかし、実際にはどうしても先任の個性や考え方によって、必ずしも公平とはならないケースも少なくない。先任からすると、乗客名簿から著名なVIPやUUU(ウルサイ・うるさい・ウルサイというコード)として有名な政財界人や芸能人などを発見すると、スムーズに事を運ぼうとして、経歴豊富な客室乗務員や容姿端麗な客室乗務員、それに自分と考え方(所属組合の違いなど)が合う客室乗務員を優先的にFやCクラスにアサインしようとするのも人情であろう。

客室乗務員達を多くのグループ別の組織で管理するグループ制を採用している。グループを統括するのはSUであり、いくつかのグループの上にはさらに管理職のマネージャー客室乗務員がいる形となっている。大型機で先任DUTYをとれる客室乗務員をJALではSU(キャビンスーパーパイザー、以前はチーフ・パーサーと呼んでいた)と呼び、その下にはCD(キャビンコーディネーター)、さらにAT(フライトアテンダント)と経験などの差によってランク付けされている。
これらの呼称は航空各社によって様々で、今でもパーサーなどの呼称を使っている会社も少なくない。

このグループ制の目的について、会社は上司が部下を正確に把握する必要性があると説明するが、本当は労務・人事管理上必要と考えた結果であろう。JALでは労使紛争が絶えず、客室乗務員の組合もかつては一つであったものの、分裂して、その片方が地上職を組織する最大労組(企業内組合の性格が強い)に加盟してしまった。会社側の立場としては、入社してくる新人の客室乗務員には全員が必ずこの最大労組に加入してもらい、会社の施策に協力してほしいと願うものであろう。そのためには、上司が部下を公私にわたって管理できる制度が必要であった。そうして一つのグループは、まるで家族のように公私共に行動を同じにする結果を生み出すようになった。

グループをまとめるSU(ANAではチーフ・パーサーと呼んでいる)は、部下にあたる客室乗務員達の勤務内容を細かく把握して上司のマネージャーに報告する。つまり、管理能力が問われ、それはそのまま自身の将来にも影響する。その結果、例えばフライト先で客室乗務員の誰かが誕生日を迎えると、皆でお祝いするなどと、結束を図ることに必死になる。

なかには、日本に帰って休日を使ってまで会食をというグループも現れ、さすがにこれには反発する客室乗務員も少なくない。もちろんSUの言う通りに行動していれば、ある意味楽で、昇格にもプラスと思う客室乗務員もいるが、本来、宿泊先では休養が第一の目的であるはずが、勤務の延長のようになったり、日本でのオフにも都心に出て行かなければならないとなると、冗談ではないと思う気持ちが強くなるのは当然であろう。


2.コックピット・ブリーフィング
客室乗員部でブリーフィングを終えた客室乗務員達はターミナルピルの通関を済ませ、機内へと入っていく。国際線の場合、JALでは出発時刻の約50分から1時間ほど前である。ちなみに、会社への出頭時刻は、パイロットと同じように国際線の場合1時間45分、国内線の場合1時間20分前とされている。その差は通関に要する時間だ。こうして機内に乗り込んだ客室乗務員達は、すぐにパイコックピット・ブリーフィングと呼ばれているものロット達との顔合わせと打ち合わせに臨む。

パイロットは、自己紹介と当日のDUTYの説明を行う。例えば、機長昇格訓練中の副操縦士が機長業務を行う場合、緊急時はどうするか、あるいは機長が2名乗務する長距離便の場合、どちらがPIC-DUTY(最終責任)をとるのかなどを全員に徹底させておく必要があるからだ。

次に先任客室乗務員からアロケーション・チャートが配られ、それに合わせてA1・DUTY(○○)です、B2・DUTY(○○)ですというように、全員の自己紹介とDUTY確認がなされていく。それを受けてPICは飛行計画、気象状況、ベルトサイン点灯時の注意事項などを説明、先任客室乗務員からは乗客のインフォメーションなどが報告され、お互いに質問がなければ、それぞれが持ち場に向かい、出発準備作業に当たることになる。客室乗務員達は客室の自分の受け持ち区分内の非常用装備品やシステムのチェックやミールチェックなどを行い、出発時刻の約30分前にはボーディング(旅客搭乗)が始まることになっている。

さて、このコックピット・ブリーフィング。実はお互いに非常に緊張する瞬間なのである。客室乗務員達から見れば、これから仕事を共にするパイロット、とりわけ機長は一体どんな人物なのか、それが業務上関心事になるのは当然だ。国際線では、時には1週間以上のつきあいにもなる組み合わせ、おおげさかもしれないが客室乗務員にとっては生活がかかっているといえなくもない。


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