1.最新旅客機のコクピットはどんな構造になっている
機長と副操縦士が座るシートや、飛行情報などを伝える液晶画面が並ぶ大型パネル、各種の操作レバーなどが配置されたコクピット。正面に向かって左側に機長が、右側に副操縦士が座るシートが置かれている。
古い機種にはたくさんのアナログ式計器が並んでいたが、現在は電子技術の発達によってほとんどの機種が液晶ディスプレイに。初期のジャンボ機(747)には50種類以上の計器があったが、777では前方メイン・インストルメントパネルにある6面ディスプレイに変わっている。各種スイッチ類などの多くは、頭上のオーバーヘッドパネルに集約された。
機長席と副操縦士席のあいだにあるのがセンターコンソールだ。スロットルレバーやフラップレバーのほか、航法装置や通信装置のコントロールパネルなどが見える。両シートの脇のサイドコンソールには、ヘッドセットや酸素レギュレーター、酸素マスク格納室、さらにパイロットが持ち歩くフライトキット(携行書類バッグ)の収納場所などが配置された。
従来のアナログ式計器類に代わってデジタル式の電子飛行計器システム(EFIS)を搭載したコクピットを、グラスコクピットという。グラスコクピットの採用でシステムの管理や監視がコンピュータで行なえるようになり、パイロットの負担も大幅に軽減。かつての航空機関士を含めて3名で乗務していた時代から、機長と副操縦士の2名乗務の時代に移行した。
最新の旅客機には、より進歩したグラスコクピットが備わっている。2007年に初就航した総2階建て機エアバスA380では、8基のディスプレイを装備。正方形が一般的だったディスプレイを縦長にし、ND(ナビゲーションディスプレイ)に垂直表示機能が加わるなど、パイロットが把握しなければならない情報がより正確にわかりやすく伝わるようになった。
HUD(ヘッドアップディスプレイ)という新しい技術を備えている機種もある。
HUDは、速度、高度、方位、姿勢などの情報を操縦席前に下ろされたガラスパネルに映すもので、かつては戦闘機に導入されてきた。HUDがあれば、操縦士は計器類を確認するために視線を窓から外す必要がない。前方を見たままで情報が把握できるため、安全性が増すのだ。
ボーイング787などの次世代機のコクピットには、このHUDが標準装備されている。
2.ハイテク化により次第に単純化していくコックピット
飛行機のコックピットは、飛行機の進化をもっとも理解できる場所である。
コックピットというと、数十個のメーターが並ぶイメージを持つ人が多いだろう。
飛行機は自動車などとくらべて、高度や武器管制といった操縦するために必要な情報量が多く、時には計器だけを頼りにする計器飛行をすることもある。
ゆえに、飛行機の計器類が多くなるのは当然で、数十個あるすべての計器に意味がある。大型機ともなると、その操作も複雑になり、正副のパイロットの他に、かつては
エンジンや様々な機器を監視する航空機関士も乗りこんでいた。
それでも単座の戦闘機などでは、重要な計器の数というのはそれほど多くなく、一人でも十分に管理できた。しかし、電子化による多機能化が進むと、それも難しくなってきた。最新鋭の戦闘機ともなると、パイロットの仕事量はかなり増大する。この解決方法として生み出されたのが、コックピットのグラス化だ。
グラス化とは、大量にある計器の情報をブラウン管ディスプレイ(CRT、現在では液晶ディスプレイ:LCDも使用されている)に集約して映し出すシステムであり、同時に各種スイッチ類を統合して操作自体をより単純化したもの。
グラスコックピットが装備され始めた80年代には、CRTで得られる情報は、速度、姿勢、機首方位、高度と戦術情報程度であったが、現在では機体のあらゆる情報をモニターしつつ制御し、異常があればパイロットに情報を提示する。
パイロットは機体を管理する多くの仕事から解放され、より快適に、ミスの少ない飛行を実現できるのだ。グラスコックピットは、現在では民間の旅客機にも使用されている。これは、飛行前、飛行中などのチェック項目を飛躍的に少なくし、航空機関士が必要なくなるなど、効率化と安全性に寄与している。
3.
グラスコックピットがさらに進化したものが、ヘッドアップ。ディスプレイ(HUD)だ。これは、操縦者の視線と重なって重要な情報が表示される。多くはコックピット前の、大きな透明の光学ガラス素子に情報を投影するもので、これにより計器を見るために視点を切り替える動作が必要なくなる。結果、より迅速な作業が可能になり、致命的なミスや一時的に平衡感覚を失う状態(空間識失調)になりにくい利点がある。
さらにこれを押し進めたのが、ヘッドマウント・ディスプレイ(HMD)である。これは、ヘルメットにHUDを取り付け、従来は前方にしか情報表示ができなかったものを、パイロットの視線に追随して情報取得できるようにしたもの。アメリカ空・海軍・海兵隊が採用しているJHMCS(Joint Helmet Mounted Cueing System、ジエイヘミクス)が知られる。最新鋭のF-35ライトニングⅡでは、グラスコックピットのモニターは1枚の大型のものになり、JHMCSとの組み合わせにより、HUDの必要はない。
ボーイングとエアバスが製造する旅客機のいちばんの違いは、コクピットの構造である。操縦席に座ってみると、その違いは歴然。機長や副操縦士が操作する「コントロールホイール」の形状と設置場所が異なっているのがわかる。
コントロールホイールは旅客機の向きなどを変えるための重要な装置で、ピッチ(上昇と下降)やロール(左右の傾き、横滑り)の調整を行なう。日本語では「操縦梓」といわれるが、操縦梓はいわゆる棒状のものだ。
従来はボーイングの旅客機に採用されている「操縦輪」のほうが主流だった。操縦輪は自動車のステアリングに似た形状で、着座したパイロットの正面に設置され、両手で「押す」「引く」「捻る」といった操作を加えることで機体の向きや角度をコントロールする。
そんなステアリング状の操縦輸に対し、エアバスがA320シリーズから採用をはじめたのが「サイドスティック」と呼ばれる棒状のコントロールホイールだった。エアバス機では座席の左右(機長席では左、副操縦士席では右)にサイドスティックを配置し、ボーイング機の操縦輪と違って片手で操作できるよう設計されている。
コントロールホイールは、パイロットの意思をコンピュータに伝える入力装置である。上昇・下降のさいにはエレベーター(昇降舵)などの操作が、旋回時にはラダー (方向舵)や主翼のエルロン(補助翼)の操作が必要だが、いずれの場合も舵を人間の手で直接動かしているわけではない。
コンピュータを介した電気信号で操舵している。ボーイング機とエアバス機の違いは、小型スティックにして操縦席をすっきりさせたほうが効率的だというエアバスと、昔ながらの操縦輸のほうがパイロットが視覚的にも理解しやすいというボーイングの考え方の差だ。 かつては「機械優先」のエアバスと「人間優先」のボーイングなどという論議も交わされたが、ハイテクを駆使した現在の機種では両社の思想の違いはなくなりつつある。
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