コンテンツ

ディスパッチャーはフライトプランを立てる地上の機長だ!

1.ディスパッチャーって何をする人?
ディスパッチャーって何をする人?
目的地までの飛行ルートは、一つだけとはかぎりません。その日の天候や風向きによって、北寄りのルートをとったり、南寄りのルートをとったり。飛行する高さも、気象条件や他の旅客機の運航状況などを見ながら最適な高度が選択されます。

こうしてそれぞれの便ごとに、効率よく安全に飛ぶためのフライトプラン(飛行計画)を立てるのが、「ディスパッチャー(運航管理者)」と呼ばれる人たちです。日々のフライトの前には、ディスパッチャーが作成したそのフライトプランをもとに、機長と副操縦士を含めたブリーフィング(話し合い)が行われます。フライト前のブリーフィングは空港にある、エアライン各社のブリーフィングルーム。そこに機長と副操縦士、ディスパッチャーの3人が集まりました。

まずはディスパッチャーから、事前に作成したその日のフライトプランについての説明が行われます。内容は、最新の天候や飛行ルート上の雲の様子、揺れの予測、その飛行高度を選択した理由など。ディスパッチャーから提示された計画書には、目的地までの距離と飛行時間、搭載燃料の量と予測消費量、飛行ルート上の風速などが、すべて数値で簡潔に示されています。

フライトプランは最終的に機長が承認し、書面にサインをすることによって有効となるため、ブリーフィングに向かうそれぞれの眼差しは真剣そのものです。
「話し合いの時点で気象状況が変わったという連絡が入り、当初のプランが若干変更になるケースもあります」とディスパッチャーの一人は言います。「お客さまにより快適なフライトを楽しんでいただくために、もう少し低い高度で飛ぶのがベストという結果になれば、一般に低高度では高高度よりも消費する燃料の量が多くなるため機長から燃料の追加搭載を求められることもあります」

パイロットとのブリーフィングには、別の担当者が出席することもあります。たとえばJALでは、フライトプランの作成は東京・天王洲にある本社内のオペレーション・コントロールセンターで実施。そのため、成田ではオペレーションオフィサーと呼ばれる人たちがブリーフィングを担当しています。

このディスパッチャーが行う運航管理業務は、一言で表現すると航空機の「運航支援」、つまり重要な業務であるが、あえて裏方の仕事といっておきたい。断わっておきたいが、これは運航管理業務を軽く見ているのではなく、業務の性格を定義した表現である。業務を統轄しているのはFOC(フライト・オペレーション・センター)、ANAではOMC(オペレーション・マネジメント・センター)という名称の組織で、運航管理者が一括して各便の飛行計画書を作成し、それを全国(海外も含む)の空港などに配信するようになっている。

以前であれば、各空港所には必ずディスパッチャーが配属され、ローカルの特殊性をも考慮した飛行計画書が作成されていたのであるが、現在ではコンピュータによる集中一元管理が可能となったわけである。この方式で、人件費や運営面で大きなコスト圧縮効果が得られている。

しかし、反面、きめの細かい飛行計画書策定とはならないデメリットもあり、機長の立場からは決して歓迎すべき方法とはいえない面がある。海外も含め地方の空港所では、FOCから配信される飛行計画書(そこにはすでに作成者のサインも記されている)を機械的にクルーに見せて、仮に機長から異議が出されれば、FOCに連絡して修正の許可を得るという流れになっている。つまり現場での実際のやりとりは、資格のある運航管理者でなくとも運航支援者で可能となり、前にも述べたような若き女性もその任に就くことができるわけである。このような変選を経て、海外や地方の空港所での業務や人事も大きく変わってきた。

各地の空港の中には必ずフライト・オペレーションと呼ばれる空港所があり、運航の実務を受け持っている。ちなみに、各空港の責任者は空港支店長とこの空港所長が担い、路線を就航している都市の市内にも営業面を中心とした市内支店長が配属されている。そして空港所の中には航務課というセクションがあり、そこのスタッフが我々クルーと日常的に接することになっている。

海外の航務課には国籍を問わず現地採用のスタッフもいるが、管理業務のFOCへの一元化に伴い年々その比率も高くなってきており、我々が外地でショーアップしてブリーフィングを受けるのも大体はその国のディスパッチャーからである。そしてこのような海外や国内地方の航務課の仕事は、運航管理業務のみならず、クルーの生活面でも、ホテルの手配や急病への対処など、実に多くの業務を含んでいる。


2.天候によっては「欠航」の決断も
そうして担当する便を無事に出発させても、ディスパッチャーの仕事はそれで終わりではありません。
離陸後もディスパッチャーは地上で燃料の消費状況や飛行状態を監視し、無線で最新の気象情報や上空の様子などを確認

なにかあればルートの変更を指示します。フライトが終わるまでは気の抜けない、まさに地上のパイロットともいうべき存在で、旅客機の安全運航はそうした地上での綿密な計画やバックアップがあってこそ可能になるのです。

また旅客機は、強風や豪雨、降雪などの悪天候により、欠航になることもあります。たとえ乗客から苦情が出ようとも、離陸後の安全が保障できないと判断すれば、便の運航を取りやめる決断をくださなければなりません。
飛ぶ、飛ばないは、その便の機長とディスパッチャーの二人で最終的に決めることになります。航空法では、両者が協議し、どちらか一方でも欠航したいと申し出ればフライトを中止しなければならないと定められています。
空港のブリーフィングルームでは毎日、ディスパッチャーとパイロットとの間で、安全なフライトを求める静かで熱い議論が繰り返されています。


3.プロフェッショナルなディスパッチャー業務とは
飛行計画書の策定は、多くの要素を考慮する必要があり、ディスパッチャーはパイロットの仕事も十分に理解していなければ良いものを提示できない。しかし、現実にはコンピュータに必要なデータを入力すると、燃料的に効率のよい飛行計画書がアウトプットされるので、それをただ提示するといったディスパッチャーも増えてきていると思えてならない。

例えば目的地の天候について、着陸は可能と言いながら、風向きがILS(計器着陵方式)を使った滑走路とは正反対に吹く予報となっていて、それでは最低降下高度の高い周囲進入の可能性があるのに、ILSを前提に「天候はOKです」とブリーフィングする、あるいはパイロットがNOTAMで到着時間帯にILSが整備で使用できないことを見つけて、「ILSはダメなんだから、この天候予報では出発できないのでは?」と質問すると、そこでやっと気が付くということも。このような例では、航空機を運航する立場に立って情報を読み取ることができず、ただ情報を棒読みしているとしかいいようがない。天候解析では、特に霧の予報を的確にとらえ運航に活かすことが今でもうまくできないでいる。

今や世界的な空港になっている成田国際空港は、日本の多くの航空会社にとってメインベース(主基地)にもあたる空港である。成田は、冬期の雪と春先の強風、それにしばしば発生する放射霧による運航障害が名物だ。霧は降雨の後に北風が吹き込むと、夜半から濃くなって、早朝には航空機の着陸に困難を及ぼすことも少なくない。そこで各地から早朝6時の開港を目指して飛行して来た内外の便は、上空待機によって霧が晴れるのを待つか、代替空港(羽田、中部等)へ向かうことになる。

しかし、代替空港へ向かったとしても、通関の関係で必ず成田に戻って来なければならない。
航空会社にとっては、運航費のみならず次の便への影響など損失は計り知れないものがある。しかし上手に運航すれば、ほとんどのダイパート(代替空港へ着陸すること)は防げるのである。

ダイパートというイレギュラー運航時の気象データは保存されていて、それを解析したところ、大抵の場合、朝7時30分を過ぎれば霧も太陽によって薄くなり、着陸可能の視程に回復するというものであった。
成田空港の朝は毎日6時にオープンとなる。それに合わせて東南アジアやシドニー方面から多くの航空会社の便が飛んで来るわけであるが、霧にぶつかると、一般的には30分から1時間くらいは上空待機して何とか着陸を試みるものの、燃料を余分に積んでくる航空機は少なく、やがて羽田空港などへのダイパートを行わざるを得なくなる。

そして皮肉なことに、羽田空港などへ着陸し、成田に向け燃料を搭載という、ちょうどその頃に成田空港での視界も着陸可能の値にまで回復することが多いのである。それが大体7時30分くらいなのである。つまり、もう少し上空待機するか、成田空港への到着予定時刻をずらしていれば、ダイパートなどする必要もなかったというわけだ。


4.管理のプロをめざすには
地上から旅客機の運航を支援するディスパッチャーには、国家資格が必要です。
ディスパッチャーになるには、まず総合職として航空会社に入社し、運航管理部門に配属されることが前提になります。そこでディスパッチャー補助者として経験を重ね、必要な知識を習得しながら、国家資格の取得をめざします。試験は航空法、航空工学、ナビゲーション(航法)、気象、施設、通信などの学科試験と実地試験に分かれ、合格率は毎回50%に満たない難関。最近、晴れてその資格試験に合格したひとは、次のように話します。

「学科試験は知識を詰め込めばなんとかパスできますが、そのあとの実地試験では、現役のパイロットなどを相手に天気図の解読や旅客機の運航援助などの技能をきちんと示せなければなりません。航空会社での実務経験が問われることになります」その資格試験にパスし、社内審査に合格すると、プロのディスパッチャーとして旅客機の運航管理の仕事に従事することができるのです。

この記事を見た人は、一緒にこんな記事も読んでいます!