目次

JAXAの5つある研究開発によって航空交通がより快適になる

1.JAXAの5つある研究開発によって航空交通がより快適になる
将来の航空交通システムは増加し続けるトラフィックをどう受け止めるか。
JAXAでは“DREAMS"と名付けたプロジェクトで、5つの得意技術を研究開発している。
今回見ていくのは「気象情報技術」と「低騒音運航技術」。
もちろん航空管制業務とも密接にかかわる。


2.増加する航空交通にJAXAの得意技術を
現在の航空交通システムのままでは、いずれは増加する航空交通を処理しきれなくなる。そこでICAO(国際民間航空機関)は、新しい技術で航空交通管理システムを変革しようというグローバルATM(国際航空交通管理)運用概念を提唱した。それを受けて日本の国土交通省も、将来の航空管制などの方向性を示す長期ビジョン「CARATS(キャラッツ)」をまとめた。

CARATSでは全部で46もの施策が、つまりグローバルATM運用概念を実現するために必要な課題が示された。そのうちJAXA(宇宙航空研究開発機構)は得意とする5つの技術で対応できる研究開発テーマを選定し、「DREAMS(ドリームス)」プロジェクトとしてスタートさせた。

5つの技術というのは、
(1)気象情報技術
(2)低騒音運航技術
(3)高精度衛星航法技術
(4)飛行軌道制御技術
(5)防災・小型機運航技術

である。これらによって可能になるのは、空港容量の増大や就航率の向上、航空交通量の増加による騒音拡大の防止、そして災害時に集中する救援航空機の効率のよい運航などだ。

今回は気象情報技術と低騒音運航技術に関して、DREAMSプロジェクトマネジャーは気象をくわしく分析したら管制間隔をもっと短縮できないか、もともと気象というのは、航空機の運航に大きく影響をおよばす。だからパイロットやディスパッチャーは必ず気象情報を調べ、飛行に支障はないか、あるいはどういったルートにすれば効率よく飛べるかを検討する。

それに対してDREAMSでは、気象をくわしく調べることで通常よりも着陸機同士の管制間隔を狭めることをめざしている。
「現在は着陸する航空機の間隔は、約2分は空けなければならないとされています。航空機が飛んだあとには翼端からの渦による後方乱気流が発生します。

それは後続機が突っ込むと危険なほど強いため、後方乱気流が収まるまでに約2分を必要とするということです。ところが風が吹いているときには、こうした後方乱気流も流されていきます。つまり風向や風速によっては、2分も待たずとも後方乱気流の影響はなくなってしまいます。


そんなときには、着陸機の間隔をもっと詰めることも可能になるわけです。
JAXAでは気象条件に応じた後方乱気流の変化を予測するアルコリズムを作り、実際の観測データと比較して検証している。

また後方乱気流は大きな(重い)航空機ほど強くなり、小さな(軽い)航空機ほど大きな影響を受けるため、航空機の並び順によって必要な間隔も違ってくる。そこでJAXAはどのように航空機を並べれば効率がよいかという点までを配慮し、そのうえで羽田空港の年間を通じた気象条件を模擬したシミュレーションを行なった。その結果、大型機50%、中型機50%の機材構成の場合で現在よりも年間平均で14.5%は管制間隔を縮められるという結果が得られたという。

もちろん、いつも都合のいい風が吹いてくれるわけではないし、いつも理想的な並びで航空機を誘導できるわけでもない。しかし条件次第で普段よりも間隔を詰められるようになれば、航空機の流れはよりスムーズになるはずだ。

風に流される騒音を気象条件から軽減する後方乱気流に限らず、空港では地形や建物の影響によって滑走路上の急激な気流の変化(低層風擾乱)が起こることも珍しくない。JAXAでは空港に設置した高解像度レーダーやライダー(光を使ったレーダー)によって低層風擾乱を観測し、パイロットに危険性をアドバイスするシステムも開発している。これも気象情報技術の成果のひとつである。

また乱気流と同じように、音も風でJAXAでDREAMSプロジェクトを統括しているマネージャは10年先を見越した航空技術の開発に取り組んでいる。
流される。物音や人の声は風下の方がよく聞こえるという経験をしたことがある人も少なくないだろう。

「そこでDREAMSでは風や温度の状態から音の伝わり方を予測し、飛行中の航空機の騒音が地上におよばす影響が最も小さくなるようなルートを求める技術の開発も進めています」現代の旅客機の騒音は、昔の旅客機と比べるとはるかに低い。それでも航空機の数が増えれば、うるさいと感じる人が増えてしまうかもしれない。

そうならないように、毎日の気象条件を加味して騒音の影響が小さなルートを設定しようというわけだ。

羽田空港周辺のように複雑に込み入った空域で、毎日の気象条件に応じて進入機のコースを変えるのは簡単ではないかもしれない。しかし最初から無理だと決めつけることもなかろう。研究を進めることで問題が明らかになれば、そこでまた一歩解決に近づくということでもある。そうして「未来の空」は近づいてくるのである。
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