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飛行機のエンジンとして使われる代表的な5つの構造の違いや目的

飛行機のエンジンは、噴流(ジェット)を作り出すことによって、その反作用を推進に利用する熱機関です。
多くのエンジンは外部から取り入れた空気を燃焼させる事で大量の噴流を作っています。


1.レシプロエンジン
飛行機の歴史とともにあったレシプロエンジン
原理的には自動車のエンジンと変わらない。すなわちシリンダー内で燃料と空気の混合ガスを圧縮し、それを燃焼させてピストンを動かし、その往復運動を連接棒とクランク軸により回転運動に変えてプロペラを回す。

ピストンが往復運動を繰り返すことからレシプロエンジン(reciprocating engine) と呼ぶ。またピストンを用いることから、ピストンエンジンと呼ぶこともある。

航空機用レシプロエンジンでは、混合ガスをつくる方法として、自動車の場合と同様に気化器(キャフレター)により燃料を空気に混ぜる方法と、噴射ポンプにより吸入管またはシリンダーの中へ直接噴射する方法の二種がある。 レシプロエンジンは飛行機創世の時代から使われてきた。ライト兄弟が作った世界初の飛行機も、レシプロエンジンを搭載していた。


空冷式と水冷式
飛行機に用いられるレシプロエンジンにも、自動車と同じく空冷方式と水冷方式がある。空冷方式とはエンジンを外気を使って冷却する方式、水冷方式とはエンジンを水で冷やす方式である。

自動車の世界においては、空冷式エンジンはほとんど姿を消した。空冷方式は温度管理が難しく、特に日本のような渋滞がおこる交通環境に適応できなかったからだ。 空冷方式は走行することによっておこる風をエンジンに直接あて、エンジン内部の温度を適正に保つので、常に車を走らせる必要がある。

一方、水冷方式はエンジン内部に細い管をはりめぐらし、そこに水を流してエンジンを冷却する。温かくなった水はラジエターと呼ばれる熱交換機を使って冷やされる。水は車が止まっている場合にも循環されるので、エンジン内部の温度を一定にしやすい。

しかし、飛行機の世界では空冷が今も用いられている。飛行機には一時停止という状態がないからだ。また、飛行機が飛ぶ上空は温度が低く、これもまた空冷にとっては好条件である。

かつて、戦闘機などに水冷エンジンは多用されたが、これは機体を小さくするために用いられたといっていい。空冷エンジンは空気をエンジンに直接当てる必要があるので、どうしてもエンジンの直径は大きくなる。それによって空気抵抗は増大し、最高速度は低下してしまう。 極力空気抵抗を減らしたい戦闘機のエンジンには、水冷式が最適だったのだ


2.ジェットエンジン
レシプロエンジンの限界
プロペラ推進のエンジンにはレシプロエンジンが使われていた。レシプロエンジンとは自動車のエンジンと同じものである。 つまりピストン上部の燃焼室で燃料を爆発させ、コンロッドを使って直線運動を回転運動にする方式。出力は気筒数にほぼ正比例し、第二次世界大戦末期には18気筒のエンジンも登場している。

エンジンの馬力は順調にアップしていったのだが、やがてプロペラの推進力が頭打ちとなる。ある程度の回転数にまで達すると、プロペラは回転速度を上げても、推進力は増加しなくなるという特性が明らかになったのだ。

そこで注目を集めたのがジェットエンジンである。ジェットエンジンの登場は新しいものではなく、ドイツのメッサーシュミットMe262戦闘機(双発型)が1944年11月から実戦に参加している。

当時の対戦国であったイギリスも、グロスター・ミーティア戦闘機を1944年7月から登場させ、同年8月4日にドイツのV-1号誘導弾を2機撃墜している。ちなみにこのV-1号誘導弾もジェット推進で、今でいう巡航ミサイルのようなものであった。


高速化への道を聞いたジェットエンジン
このV-1に搭載されていたのはパルスジェット・エンジンで、大気圧で吸入した空気に燃料を吹き付け、点火プラグで爆発させるという原始的なもの。 点火が連続的には行われないので、排気ガスは断続的に噴出された。構造が簡単なのでV-1に採用されたのだが、最高速度は時速600krnくらいにとどまり、スピットファイアなどの高性能レシプロ機に余裕で追いつかれていた。

しかし、その後登場したターボジェット・エンジンを装備するメッサーシュミットMe262により、レシプロ機の座は次第におびやかされるようになった。 ターボジェット・エンジンは、多段式の羽根車で空気を圧縮し、高温になった空気に燃料を噴射しで燃焼させ、排気ガスを噴出させて推力を得る。

世界最初の実用ジェット戦闘機として登場したメッサーシュミットMe262双発戦闘機は、1944年11月に戦線に登場し、第二次世界大戦の終幕を飾った。 ジェットエンジンにはいくつかの種類がある。代表的なものは、ターボジェット・エンジン、ターボプロップ・エンジン、ターボファン・エンジンである。


3.ターボジェット・エンジン
連続的に取り出せるエネルギー
エンジンの最後段にあるタービンの出力が、すべて前方にあるコンプレッサー(圧縮機)の駆動に利用され、エンジンが発揮する推力の100%が排気の運動エネルギーに等しい。

圧縮機とは、数多くのブレードで空気を大気圧の約30倍ほどに圧縮する装置。気体は圧縮されると温度が上昇するという性質がある。この特性はホイル・シャルルの方程式で数式化されている。

圧縮機により圧縮され、約500度くらいにまで達した空気に燃料を吹き付け燃焼させる。燃焼した排気ガスは勢いよく後方に噴出され、排気口に設けられたタービンを回転させる。このタービンは圧縮機のブレードを回す動力となる。

つまりターボジェット・エンジンは、一度点火されたら燃料の供給が止まるまで回転し続けるのだ。動作原理としてはレシプロエンジンにくらべてはるかに簡単である。

なにしろ圧縮と燃焼をひとつの行程で行うことができるからだ。レシプロエンジンでは大気圧により吸入し、ピストンにより圧縮し、点火プラグにより点火し、また大気圧により排出が行われる。 そして動力が得られるのは4つのサイクルのうちひとつだけである。ジェットエンジンは連続的に爆発がおこっているので、一度にたくさんのエネルギーを発生させることができる。


高速機に適した特性
空気を圧縮するのに必要なブレードは小さなものでも十分にその役割を果たす。そのため、プレード自身が音速を超えることはない。ちなみに飛行機が音速を超えたとしても、ジェットエンジンの中で圧縮される空気の速度は音速以下である。音の速度で飛び込んでくる空気は、ジェットエンジンの手前で減速される。

先すぼまりの空気取り入れ口をつくってやれば、ベルヌーイの定理が働き、気体の速度は減速される。 大量の空気を連続的に燃焼させることができる特徴をもつターボジェット・エンジン。そのため燃料の消費は速い。

また、排気ガスが高速で、空気を切り裂くときに生じる騒音がものすごい。ターボジェット・エンジンは、排気ガスをそのままエネルギーとするので、自動車などにみられるマフラーで消音することもできない。そのため、騒音が社会問題化するほどである。 こうしたことから、現在は速度が生死を分け、騒音公害やコストが度外視される軍用機に利用されている


4.ターボプロップ・エンジン
コンプレッサーがプロペラの動力
ターボジェット・エンジンのタービン部分の回転力でプロペラを回転させるのがターボブロップ・エンジンである。

タービンの回転を、シャフトやギアを使って取り出し、エンジン先端に取りつけたプロペラを回転させる。コンプレッサーの回転数は必要以上に高すぎるので、減速装置と呼ばれる歯車を使って、回転数は落とされる。

燃焼室を経た排気エネルギーは後方に排出され、ターボジェット・エンジンのように、推進力にも使われる。しかしその利用はごく一部で約10%ほどである。 残りの90%はすべてプロペラが生みだしている。

タービンはプロペラを回転させる力を発生させるだけでいいので、タービンの回転を生みだすコンプレッサー部は小さい。 排気ガスの速度も遅いので、耳をつんざくような騒音を低く抑えることができる。また、ターボプロップ・エンジンは燃費にもすぐれている。

低速域での燃費性にすぐれる
プロペラ推進は低速では、ジェットによる推進よりも効率よくエネルギーが使えるが、音速付近になるとその効率は低下するので、スピードが求められる飛行機には使用されない。

このため、ターボプロップ・エンジンは、スピードがあまり重要視されない、短距離間を結ぶ飛行機に用いられる。また、低速での燃費性能の良さから、長時間海上を飛行する必要のある哨戒機などにも用いられる。 しかし近年では、ターボファン・エンジンの燃費性能がめざましく進歩しており、ターボプロップ・エンジンを採用する機種は減ってきている。

ターボシャフト・エンジン
ヘリコプターに用いられるターボシャフト・エンジンは、ターボ・プロップエンジンの仲間といえよう。こちらもタービンで回転力を得、その力を回転翼の動力として使っている。かつてヘリコプターもレシブロ機がそのほとんどを占めていたのだが、近年では立場がすっかり逆転している。今ではレシプロ機は総登録機数の2割以下でしかない。


5.ターボファン・エンジン
推進力のほとんどはファンが発生
外見上の特徴は、エンジンの最前方にある大きなファン(風車と似ている)で あろう。このファンは、排気の運動エネルギーのー部を利用して回している。ターボファン・エンジンは、中・大型旅客機のほとんどに採用されている。

ターボジェット・エンジンの場合、圧縮機で圧縮された空気のすべては燃焼室へと送られ、排気ガスとして後方に排出される。しかしターボファン・エンジンではほとんどの空気は燃焼室を経由せず、そのまま外に排出される。旅客機のほとんどが、約400度くらいの生暖かい空気により、推進力を得ているのだ。

そのまま後方へ送り出される空気と燃焼に使われる空気の比率は、バイパス 比と呼ばれる。従来のエンジンのバイパス比は6程度であるが、B777に使われる新型のGE社製GE90は、約9対1のパイパス比をもつ。 バイパス比が高ければ高いほど、燃焼させる空気の量が少ないので、燃費を向上させることができる。

静粛性にすぐれる
ファンとは、数十枚のプレードと呼ばれる金属の羽根の集合体。プレードの材質はおもに、軽くてかたいニッケル系合金が使われる。かつては、ブレードの数を増やすことが推力アップにつながると考えられていた。したがって小さなプレードを無数に並べていたのだが、近ごろでは大きなブレードを使ったほうが効率が良いことがわかってきたので、ブレードの数は少なくなってきている。

燃焼室に送り込まれる空気は、数段の圧縮機を通り高温になる。そして燃焼室で燃料を吹き付けられ、爆発エネルギーが生じる。高温で排出される排気ガスはファンや圧縮機の動力として利用されながら、後方に吹き出される。

そのため排気の噴出速度は減少するが、ファンによって生みだされる空気が加わるので空気流量は増し、エンジンの推力は増加する。 ファンによって生みだされる空気は、圧縮機より吹きだされる高温・高速の排気ガスを覆うように排出される。

ジェットエンジンの騒音のほとんどは、勢いよく排出されるガスが大気を切り裂くときに発生する。この音を空気のカーテンで覆ってしまうのだ。 効率ばかりではなく、騒音公害を低いレベルに抑えることができる特徴により、ターボファン・エンジンは多用されるようになった。

巨大なジェットエンジンの内部
大型旅客機に使われているターボファン・ジェットエンジンの正面に立つと、大きなファンが見える。エンジン内部は圧縮機、燃焼室、タービンにエリアが分かれ、圧縮機とタービンは軸でつながっている。

この軸を中心に扇風機の羽根のようなファンブレードが何段にも連なり、大きさは前方(圧縮機)から後方(燃焼室) にいくにしたがって小さくなっているのが特徴だ。

ファンブレードを高速で回転させると、周囲の空気が次々とエンジン内部に吸いこまれていく。ブレードの大きさは後方にいくほど小さくなっているので、吸いこまれた空気はぎゅっと圧縮される。圧縮されて高温になった空気は燃焼室に送られ、そこに噴出した燃料と混ぜ合わされて、点火プラグによって爆発・燃焼。その燃焼ガスが、ものすごい勢いで後方へ排出され、飛行機を前進させる推力になるわけだ。

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