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飛行機の着陸装置のメカニズムと車輪とタイヤについて

1.旅客機を支える脚《着陸装置のメカニズム》
着陸装置のメカニズムと車輪とタイヤについて
脚とか降着装置、着陸装置といろいろな呼び方をするが、英語ではランディング・ギアつまり着陸脚だ。日本語では着陸装置が一般的だろう。地上滑走(地上走行)にも離陸にも不可欠のものだけれど、やはり着陸が最も重視されているということか。

着陸装置とは、飛行機が離着陸したり、滑走路からターミナルや駐機場へ移動する場合に使われる装置である。この装置には油圧を利用したブレーキや、脚の上げ下げのための装置、脚収納部のドアの開閉が含まれるが、すべて油圧により行われる。

前脚と主脚の脚柱には、それぞれ油と圧縮ガスが封入されたシリンダー(円筒)があり、着陸のさいの衝撃を吸収する。 一般にショックアブソーバーと呼ばれ、構造的には、自動車に用いられるものと同じである。

衝撃と同時にピストンがシリンダーに食い込み、シリンダー内部に密封された油を圧縮する。油はシリンダー上部の空気を圧縮し、空気はそれに反発する。この圧縮と反発によってショックを和らげる。空気が強く反発してしまうと、再び飛行機はジャンプしてしまうので、なるべくゆっくりと反発するように、油が下に落ちる穴は小さくなっている。

その着陸装置は車輪、タイヤ、ブレーキ、操向装置、緩衝装置、ロック装置などで構成されている。着陸装置は機首下面に付けられた首脚(前脚ともいう)と、機体の重心位置近くに付く主脚に分けられる。首脚(ノーズ・ギア)は全体の荷重の10%を受け持ち、地上で方向を操作する操向装置を備えている。

コクピット内の操向用ステアリングを回すと、油圧で首脚に付いた前輪の操向装置は70度まで動く。これは操縦桿で操作するのではない。また方向ペダルでも前輪を左右7度まで切ることができる。

荷重の残り90%を支えるのが主脚(メイン・ギア)で、普通は2本だがジャンボのような大型機では左右2本ずつの計4本備えている。ジャンボでは前輪の動きにリンクして、主脚に取り付けられた主輪も油圧で最大左右13度まで操向できるようになっている。

着陸の際に受ける衝撃や、地上滑走中の振動を吸収して、機体に悪い影響を与えないようにしているシステムが、緩衝支柱、緩衝装置である。これは日本語で言うよりショック・ストラット、ショック・アブソーバーと言ったほうが分かりやすいだろう。

その代表的なものがオレオ式緩衝装置で、シリンダーとピストンで構成されており、シリンダー内の作動油でショックを吸収する仕掛けになっている。衝撃が加わると、ピストンの作動油が小穴(オリフィス)を通じてシリンダー内に流れる仕掛けだ。

ロック装置は脚を固定するための機構だ。離陸して脚を上げたあと脚が下がるのを防ぐ装置をアップロックと呼び、逆に着陸のため脚下げ状態に脚を固定する装置をダウンロックという。アップロックは大型機では脚格納扉にも取り付けられており、別名アップラッチともいう。

ジャンボの主脚は翼付け根部に2本、胴体下面に2本の計4本。従来の旅客機にはなかった装備数だ。それにそれぞれ4本の車輪・タイヤが付くのだから、離着陸を下から見上げると、ジャンボの下面は脚とタイヤのお化けといった印象だ。

翼に付けた脚をウイングギア、胴体に付けたものをポディギアと呼んでいる。脚構造の主材料はスチールで、これは従来の機体と変わらないが、真空溶解法による新しい高張力鋼を使っているのがジャンボ以降の新鋭機の特徴だ。

さらにジャンボで初めて試みられたのがチタン合金の使用で、ボディギアのドラグストラットと、ウイングギアの下部サイドストラットにチタン合金が使われている。


2.車輪とタイヤ
旅客機の着陸装置には車輪が付いている。車輪はホイールとタイヤで構成される。これは自動車だって同じだ。ホイールの材料は、アルミ合金またはマグネシウム合金。タイヤは層状に重ね合わせた斜め織りのプライコードとトレッドラバー、ビードからできている。チューブレスのバイアス・タイヤというものだ。

タイヤの素材には、強靭性、接着性、熱の発生量が少ない、温度変化による劣化が少ないなどの優秀性が求められるため、天然ゴムが使われている。

現在ではラジアルタイヤが使われている。ラジアルタイヤとは、タイヤ内部にチューブをもたないタイヤのこと。ホイールと接するワイヤに、繊維入りのゴムをなんども重ねて成型する。自動車用のタイヤと違うのは、トレッドパターンが単純であることである。

飛行機の場合は線が何本か入っているだけ。自動車のように幾何学模様のタイヤは存在しない。これは、飛行機にはコーナリング性能を要求されないからだ。ただまっすぐ走ればいいタイヤなので、複雑な切り込みなどはない。

タイヤへの負担は上空から滑走路へのランディング時にもっとも大きいと考えられがちだが、旅客機は離陸のときのほうが燃料を満載しているぶんだけ重い。速度も当然、離陸時のほうが着陸時より速くなり、そのぶんタイヤへの負荷も増す。

300トンの重量を支えるだけでなく、過酷な条件下で機能させなければならないのも旅客機のタイヤの宿命だ。上空では気温がマイナス50度以下に下がり、地上では着陸時にブレーキ熱が加わるためタイヤの温度は150度程度まで上昇する。マイナス50度に冷やされたタイヤが滑走中にそこまでの熱を持つというのは、レーシングカーをはじめ他の世界では考えられない。

近頃は大型量販店に行けば、自動車のタイヤに窒素ガスを入れるサービスがあるが、飛行機では常識である。自動車の場合、空気より軽い窒素ガスを入れることによって、足回りを軽量化する役目を果たすとされているが、飛行機の場合は安全性を高めるために行われる。窒素ガスは不燃ガスであるからだ。なにしろ飛行機が接地した瞬間、タイヤの温度は約100度にまで上昇する。

離着陸によってタイヤは磨耗する。トレッドが使いものにならないほど磨耗してしまう。平均着陸回数は、ジャンボで180~230回(通常100~170回)といわれる。

磨耗したら交換して捨ててしまうわけではなく、表面だけ張り替えて再使用する。磨耗したトレッドを削り取って、新しいトレッドラバーを加硫して焼き付けるのだ。これをリキャップというが、異物による傷さえなければ数回(最大10回程度)はリキャップできるとされている。

さてジャンボのタイヤだが、前脚の首輪に付くのは普通と同じダブルタイヤだから、タイヤの数は2本。主脚の主輪はダブルタンデムつまり前後に2個ずつという車輪(計4個)で、これが4本あるからタイヤの数は合計16本になる。首輪と主輪のタイヤを合計すると18本のタイヤだ。

これらのタイヤは首輪・主輪とも同サイズで(通常は主輪用が大きい)、124×43cm(B747-200)という寸法だ。あのジャンボの巨体と自動車とを比較すると、タイヤのサイズが意外に小さいと感じるかも知れないが、これは機体重量の軽量化のためにタイヤのサイズ、重量ともできるだけ小さく軽く設計されているためだ(もっとも計18本も付いているけれど)。

従って各タイヤが担当する荷重はサイズに比べて非常に大きくなるので、タイヤの充填圧力(自動車の空気圧に相当)が高くなっている。安全性を考えて充填するのは窒素ガスで、その圧力はジャンボで14kg/平方センチメートルと、自動車の空気圧とは桁違いだ。

また使用荷重は2万1200kgとこれも桁違いに大きく、要求速度も時速360kmに達する。
DC-10-40は主脚3本でダブルタンデムタイヤ、そのメインタイヤの寸法は132×52cmとジャンボよりも大きく充填圧力は12.7kg/平方センチメートルとなっている。使用荷重は2万7000kg、要求速度は時速380kmだ。

3.ブレーキ
ローターの摩擦によりブレーキがかかる
飛行機の着陸装置にはブレーキがあり、着陸後の滑走距離の短縮ばかりではなく、何らかの理由で離陸滑走を中止する場合など、飛行場内のどこでも停止できるようになっている。

ブレーキの形式は、油圧でコントロールされるディスク・ブレーキで、小型機の場合は自動車と同様のシングル・ディスク・ブレーキが用いられるが、ジェット旅客機の場合はマルチブル(多層式)ディスクのブレーキである。

この場合は数枚のローターと呼ぶ円盤が車輪と一緒に回転し、いっぽうのステーターと呼ぶ円盤がローターの間に交互に入っており回転はしない。 ブレーキは、このふたつの円盤を必要に応じ油圧で密着させ、そこに生ずる摩擦により制動するしくみである。運動エネルギーを熱エネルギーに変換する装置であるともいえる。

最近の旅客機の多くがアンチスキッド装置をもっている。これは自動的にブレーキの効きを調整してタイヤのロックを防止する装置で、車輪の回転速度と減速率を電気的に感知し、効果的にブレーキ圧がかかるように制御している。この技術は自動車に応用されるようになり、身近なものとなっている。

ディスク・ブレーキ以外のブレーキ
最近の旅客機の多くはカーボン製のローターを使っている。これは車などに用いられる金属製のローターよりも、軽量でかつ耐熱性にすぐれ、強力な制動効果を得ることができるからだ。

航空機にはこのほかに、空力的にブレーキをかけるシステムもある。スポイラがその装置だ。また同時に、着陸時にはフラップを最大限まで下げることによって空気抵抗を増大させている。パラシュートを開いてブレーキの補助とする航空機もある。

その代表的な例がスペースシャトルだ。その他のブレーキの補助システムとして、エンジンの逆噴射がある。これはジェットエンジンの吸気口から排気ガスを噴射するようなものではなく、噴射口に衝立を立てて、排気ガスを斜め前方に噴出させるメカニズムである。

飛行場でもこの動きは観察することができ、着陸と同時にエンジンカバーがスライドし、ぽっかりと大きな穴が開くのが見てとれる。ここから排気ガスを噴出することにより、ブレーキがかかる。着陸と同時にエンジン音が高まるのは、この逆噴射をしているためである。

4.着陸時に作動する逆噴射装置のメカニズムは
エンジンの推力を進行方向とは反対(うしろ)向きにはたらかせるケースもある。 着陸時に作動する「逆噴射」だ。 着陸する空港に近づくと、機体はスピードを絞りながら少しずつ高度を下げ、やがて車輪が滑走路に接地した振動を乗客は身体で感じる。そして次の瞬間響きわたるのが、エンジンの逆噴射の轟音だ。

逆噴射装置は「スラストリパーサー」などと呼ばれ、原理はとてもシンプル。着陸すると、パイロットはエンジンの出力を上げ、スラストリパーサーレバーを引き起こす。 するとエンジンの排気の流れがせき止められて、その排気を前方または横方向へ逃がすための板やドアが作動。飛行中は後方へ噴出されていた排気の向きが逆方向になり、ブレーキの役目を果たすというしくみである。

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