飛行機が恐いという人の中に、カミナリは大丈夫なの?と聞く人が多い。
カミナリの真っ只中を飛行しても大丈夫だ。旅客機には静電放電装置という一種の避雷針が付いているから、たとえ被雷しても安全なのだ。
もともと飛行機には、被雷するまでもなく雨、雪、あられ、塵、砂などが飛行中にぶつかることによって、静電気が発生しており、そのままだとやがて蓄積されて周囲の空間に逆に放電(コロナ放電)を始める。これは搭載されている通信機器などに有害な雑音となるので、主翼、尾翼などにあらかじめ放電装置を備えているのだ。
「被雷した場合に大事なのは、到着してから整備士に報告し、機体を十分に点検してもらうことです。入念なチェックを怠らなければ、雷は大きな問題ではありません」
雷で人に被害がおよぶのは電気が身体を通り抜けたときで、重いやけどを負ったり、ショックで心臓が停止し死に至ることがある。しかし、機内の乗客は金属でできた機体自体に保護されているため、安全なのだ。
また飛行中は、大気との摩擦で機体に静電気が生じる。この静電気が計器類や通信機器に影響を及ぼす可能性があるため、主翼や尾翼など数か所に静電気を放電させる「スタティック・ディスチャージャー」と呼ばれる装置が装着されている。
長さ10cmほどの細い棒状のもので、飛行中に雷を受けてもこれが避雷針の役割を果たすのだ。 このスタティック・ディスチャージャーは中型機では20~30本、大型機では計50本も取り付けられている。
雨や雪、氷結に対しても旅客機はちゃんと装置を備えている。
除雨(雪)装置としては、現代の大型旅客機では大きなワイパーで雨滴を取り除いている。これが必要なのは基本的に地上だけだから、自動車と同じ方法で充分だ。豪雨の時にはレイン・リペラントという雨滴をはじく装置を併用する。これはウィンドウ・ウォッシャーみたいなものだ。
少々やっかいなのは氷結だ。そのために防氷(アンチアイシング)装置と除氷(デァイシング)装置を備えている。翼の前縁、エンジン空気取り入れ口、アンテナ、ピトー管、コクピットの風防などに氷が付着してしまっては、機能が発揮できなくなるので、これを防ぐための装置が防氷装置だ。ジェット機では翼前縁やエンジン空気取り入れ口などに、エンジンから抽出したホットエアを流すことで、またピトー管やコクピット風防には電気的に加熱して着氷を防止している。
除氷装置としては、YS-11などのプロペラ機の翼前縁に装備された、ゴムのブーツ(デアイサー・ブーツ)式のものが代表だ。ゴムのブーツ内に圧縮空気を送って膨らますことで、表面に付着した氷を除去するのだ。
カミナリも雨、雪、氷も機内にいれば大丈夫。
そう聞けば飛行機恐怖症という可哀相な人も、少しは安心してくれるだろうか。
旅客機の胴体、翼には様々なライト(灯火)が装備されている。
いずれも安全のために必要なものだ。夜の空港では空港施設の各種灯火と共に、旅客機のライトは独特の雰囲気をかもしだし夜景を彩ってくれる。
また、ふと見上げた夜空にライトを点滅させながら飛ぶ旅客機を見ると、旅情を誘われたりロマンティックな想いにかられたりするものだ。サン・テグジュペリの小説を読んだことがなくても、香水に興味がなくても、「夜間飛行」という言葉には誰でも心惹かれるものがあるだろう。
しかし旅客機のライトは、アクセサリーとして装備しているものではない。それぞれに役目があり運航の安全を担っているのだ。旅客機のライトには次のようなものがある。
まず重要な
衝突防止灯。アンチコリジョン・ライトとかビーコン・ライトと呼ばれるこれは、航空機同士の衝突を防止するためのもので、赤色の閃光灯だ。胴体の上面と下面に取り付けられており、1分間に70回程度点滅する。
次に航空灯、航法灯または位置灯と呼ばれるライト。航空機の進行方向と位置を示すもので、英語ではナビゲーション・ライト、ポジション・ライトという。主翼の両端と水平尾翼の両端に付けられており、右主翼は緑色灯、左主翼は赤色灯(これで進行方向が分かる)で、水平尾翼は両端とも白色灯になっている。
なお主翼端のライトは前と後に1個ずつ付けられ、その中間に白色点滅灯(いわゆるストロボ・ライト)が付いている。
このストロボはトライスター、DC-10で初めて登場したライトで、ジャンボには当初装備されていなかったが、現在では付いている。この役目は衝突防止灯の補助である。最近では尾部にもストロボ・ライトを付ける例がほとんどだ。各機とも衝突防止に大きな注意を払っている証拠だ。
着陸灯(ランディング・ライト)は、離着陸の際に滑走路を照らす白色灯で、主翼の胴体寄り(内翼)前縁(または翼の下側)に付いている。タクシー灯はタキシング中に誘導路を照らす白色灯で、前脚(首脚)の脚柱に装備している。これらは自動車の前照灯と補助ランプと同じ役目だ。
垂直尾翼に描かれた航空会社のロゴ(標識マーク)を照らしているライトがロゴ灯だ。大型機の両水平尾翼の上面にある。1995年6月型日にハイジャック事件が発生した。あの時、夜の闇に閉ざされた函館空港の誘導路に駐機したB747SRの、垂直尾翼のANAのロゴだけが明るく照らし出されていたのをご記憶だろう。あのアッパー・ライトがロゴ灯だ。さらに主翼の付け根にもライトがある。主翼照明灯というもので、必要に応じて点灯し翼表面に着氷がないかどうかなどをチェックするのに使用するライトだ。
最近の旅客機の主翼両端に、変なモノが取り付けられているのにお気付きだろうか。B747-400、MD-11、A310、A340などに見られる、翼端を折り曲げたようなあれだ。翼の端にまた方向の異なる翼を付け足したようなもの。あれは飾りじゃない。その名をウィングレットという。小翼という意味だ。
なぜあんなものが付いているのか。どんな効果があるのか。
実はあれはなかなかの優れもので、燃料節約のための効果的な対策なのだ。
燃料節約、
燃費率向上には、大別して二つの方法がある。ひとつはエンジンの推力・時間当たり燃料消費率を減らすことであり、もうひとつが機体を空力的に改良して空力効率を高める方法だ。エンジンのほうはジェット時代初期のストレート・ジェットから、ターボファンになって(特に最近の高バイパス比ターボファン・エンジン)、飛躍的な低減効果をあげている。そしてもうひとつの空力効率を高める決め手として登場してきたのが、このウィングレットなのだ。
発明者であり命名者でもあるのが、NASA(米航空宇宙局)のウィットコム博士。このウィットコム博士は、抵抗を減らす断面積法則の発見者として知られた人物だが、彼が考案し命名したウィングレットとは、翼端を上方に折り曲げるか、翼端の前部を下方に後部を上方に折り曲げる(上下に開いた形)かするもの。主翼の両端に翼端板を取り付けて翼端渦の出方を変えてやると、誘導抵抗を減少できることは1930年代から知られていたようだ。
しかしこの翼端板ではそれ自体の有害抵抗が大きく、充分な効果が期待できなかったという。それを洗練させたのが、ウィットコム博士が1970年に発表したウィングレットだった。翼端板とは違って翼型の断面を持ち、これで側方の揚力を発生し、この揚力が主翼全体のスパン方向の揚力分布に影響して、普通の翼では強いエネルギーで抵抗となってしまう翼端渦を拡散し、誘導抵抗を著しく弱める効果を発揮する原理だ。
翼端の回転する流れが大きな迎え角でウィングレットにぶつかるので、機体全体としてみるとウィングレット揚力の成分が前向きになり、抵抗を減少するのだ。主翼の幾何学的形状に対応して、ウィングレットの大きさ、形状、後退角、取り付け位置、カント(前から見た傾き角)などを系統的に変化させて誘導抵抗を研究した結果得られたのが、現在実用化されているウィングレットなのだ。マッハ0.82の巡航時で、3.5パーセント以上の抵抗減少が実現しているという。
初めて実用化したのはA310-300で、これは上下に開いた形状をしており、エアバスではウィングチップ・フェンスと呼んでA320でも採用している。これに対して上方に折り曲げたウィングレットを採用したのが、B747-400やMD-11だ。
エアバスもA330/340ではこのタイプになっている。B747‐400のウィングレットは、長さ(高さ)が1.8メートル、付け根幅が3メートル、先端幅1.2メートル、後退角60度、外側への傾き29度で、材料はCFRP(炭素繊維強化プラスチック)だ。
飛行機は主翼の取り付け位置によって大きく3つのタイプに分類され、用途によって使い分けられてきた。そのうち、乗客を乗せて飛ぶ旅客機に採用されているのは、おもに「低翼式」と「高翼式」の2タイプである。
離陸・上昇していく旅客機を真下から見上げると、主翼がボディ(胴体)の底の部分から左右に広がっているのがわかる。翼がボディの低い位置(下のほう)に取り付けてあることから「低翼式」と呼ばれるのがこのタイプだ。左右の翼をつなげて一体型にすることで強度を高められ、またボディの内部スペースをフルに活用できることから、低翼式は多くのジェット旅客機に採用されてきた。
ローカル路線の短い距離を飛ぶプロペラ機などによく見られるのが、翼が胴体の上に乗っている形の「高翼式」と呼ばれるタイプだ。「ダッシュ8」の名で親しまれるボンバルデイアのDHC-8や天草エアライン、日本エアコミューターが運航をはじめたATR42などは、その代表機種である。もうひとつ、翼が胴体の中ほどについている「中翼式」と呼ばれるタイプもある。
中翼式は翼と重心の位置が近いので、飛行が安定する。背面飛行をしても翼の位置が変わらず、通常時の感覚に近い操縦ができるため、変則的な飛行をする曲芸用飛行機や戦闘機などに採用されている。
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