航空機は誤操作や不測の事態に対して、的確に判断しなければ大事故につながります。そこで、障害発生時の被害を最小限に抑えるため、「フォールトトレランス」という考え方が採られています。
勘違いされているフェイルセーフ
航空機事故の報道などで紹介される言葉にフェイルセーフ(Fail Safe)がありますが、言葉としては正しいものの、その説明として一部誤解されている場合があります。
本来「フェイルセーフ」とは、「システムが異常を起こしたとき、常に安全側に作用すること」を表しており、航空機などで用いられているような、設備を部分的あるいは全体的に二重化(デュープレックス)、多重化(マルチプレックス)させて安全対策を行う、という意味ではありません。
自動車の場合は、トラブルが発生したとき、自動車が何らかの動作をするようにプログラムしておくより、「停止する」ほうがより安全性が高まります。これが、フェイルセーフです。産業用ロボットでも同様で、トラブルを起こせば停止するようにプログラムされています。
ところが、航空機の場合は、停止させると墜落事故を招くことになり、自動車やロボットと同じようにはいきません。
そこで、航空機に関しては、フェイルセーフという考え方を反映させるのには無理があり、フォールトトレランスという考え方が提唱されています
フォールトトレランスで信頼性向上
フェイルセーフが、「失敗しても安全である」ことを意味するのに対し、フォールトトレランスは、「欠陥があってもそれを許容する」ことを意味しています。つまり、フェイルセーフが直接的に安全性の確保を目標にしているのに対して、フォールトトレランスは信頼性の向上を目標にしている点が異なるところです。
言い換えると、フェイルセーフが機械の故障や人為的ミスが発生した場合に、機械を停止させるなどして、安全性を確保しようというのに対し、フォールトトレランスはできるだけ機械の正しい機能を維持させることで安全性を確保しようという考え方です。航空機の場合では、エンジンを停止させることなく、そのときに働く機能を使っていかに安全な運航を維持するかということになります。
そのためには、トラブルを最小限に抑えられるように信頼性の高い部品やシステムを採用することはもちろん、常に「いつかは故障する」ことを念頭に置き、多重系統によるリカバリー態勢を構築しておくことが重要です。
この、
システムやパーツの多重化によって信頼度を向上させ、結果として安全性向上に寄与するというのが、フォールトトレランスの根本的な考え方です。
操縦系統は、ロッドや油圧機構を用いた機械的リンケージ方式から、電気的伝達方式のフライ・バイ・ワイヤヘと移行し、最新技術では光学的なセンサを用いたフライ・バイ・ライトヘと進化しています。
軍用目的だったフライ・バイ・ワイヤ
航空機の操縦系統は、パイロットの操作をケーブルやロッドなどを介して油圧機構に伝達し、飛行操作に必要な様々な部分を動かすという方式でした。このような機械的な方式から、操作を電気信号に変換して電線(ワイヤ)で油圧サーボ・アクチュエータに信号を入力し、電気的に操舵する方式にした技術がフライ。バイ・ワイヤ(FBW)です。
FBWの各機器の通信が、米国の軍用規格であるMIL規格の「MILISTDI-553」で行われていることを見ればわかるように、当初は軍用目的で開発されたものです。
軍用としては、被弾面積を少なくする目的で研究されましたが、コンピュータの発達によって操作に対する正確なレスポンスが得られ、しかも高度な飛行制御の自動化に有効であることと、構造の簡素化による軽量化が実現できることから民間機にも導入されるようになりました。特に、基本構成要素である、電気系統が雷や電磁波から安全に保護されている点は高く評価されました。旅客機で最初に採用したのは1976年就航のコンコルドですが、当時はまだアナログFBWでした。デジタルFBWを旅客機ではじめて採り入れたのは、88年就航のエアバスA320です。
このFBWの設計思想は、自動車の安全性を向上させる目的で採用されているFLYBYWIREなどのように、他分野にも影響を与えているほど、各方面から高い評価を得ています。
フライ・バイライトで安全性向上
フライ・バイ・ワイヤでは信号伝達に電線を使っていますが、これを光ケーブルや光学的センサで行おうというのが、フライ・バイ・ライト(FBL)またはフライ・バイ・オプティクスと呼ばれる方式です。パイロットの操縦を光学的センサで検知し、コンピュータで機体をモニターしている別の光学的センサのデータと比較処理して、航空機を制御する技術です。
FBLは、光技術を利用することで電磁干渉に強いというメリットがあるほか、高速大容量の伝送能力、小型および軽量化、防火性などの特長も併せ持っている技術として注目されています。
このほか、重量や整備性が課題になっている油圧機構を見直し、アクチュエータとして電動モータまたは密閉式電気油圧式アクチュエータを採用することで、タンク、ポンプ、配管を削減したパワー・バイ・ワイヤが開発され、一部の航空機でバックアップシステムとして採用されています。
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