航空業界の待遇・休日・福利厚生の実態とは
1.大手では比較的高い賃金
わが国の
大手航空会社の正社員の給与は、産業界全体のなかでも比較的高い。大卒の初任給(2006年度実績)こそ、日本航空が19万0296円、全日空が20万1348円(特定地上職を除く)と大手では標準的だが、機長ともなるとかなりの高給になる。
たとえば、全日空の運航乗務員の平均年間給与は約2114万円(44歳、06年3月末、賞与および基準外賃金を含む)、従業員平均でも同約890万円(平均38.8歳、日本人)というから、平均的な日本の企業に比べると高い水準にある。
ただし、世界的な競争の激化に伴い、期間限定で賃金カットを断行するなど、人件費の抑制に動く会社もあり、航空会社イコール高待遇という図式は崩れつつある。とりわけ、契約制で採用される客室乗務員などは、待遇面でかなり厳しいことを理解しておきたい。憧れや華やかなイメージだけでは決して務まらないのが、現在の航空業界の仕事なのだ。
運輸業であると同時に、サービス業でもある航空ビジネス。これが本当に好きで、かつ、熾烈な競争を勝ち抜ける強さを備えた人材こそが求められている。
2.就労時間が一律でない空港などの勤務
航空会社には、勤務時間帯が一定の日勤部門(スタッフ部門)と、早番や遅番など時間帯が不規則な変則勤務部門(空港などのライン部門)がある。
このように勤務条件が一律でないことは、航空業界の特徴のひとつだ。なかでも、総合職などが入社してすぐ配属されることの多い空港では、航空機の発着に合わせて早朝から深夜まで交代制の勤務があり、ときには24時間体制になることもある。
日勤部門の勤務時間は一般企業と同じで、全日空では9時から17時25分まで(金曜のみ17時20分まで、他社もほぼ同様)と決まっている。ただ、部署や時期にもよるが、定時で帰る人は少ないようだ。合理化の推進により、一般的に社員1人あたりの仕事量が増えているという見方もある。
休日は、大手のスタッフ部門の場合、週休2日制が基本で、土曜、日曜、祝日、年末年始など年間120日程度ある。一方、変則勤務のライン部門では、混雑して業務が忙しい土曜。日曜などに出勤し、平日に振り替え休日をとることが多い。
日本航空では基本的に4日勤務2日休み(=月間休日10日が標準だが、一部異なる場合もある)の勤務体制となっている。
大手やそのグループ会社の場合、福利厚生も充実している。たとえば住居の面だ。大手は独身寮や社宅の数が多めで、設備も整っているようだ。一般的に独身寮はワンルームで、エアコンや駐車場も完備。もちろん、社宅も整備されている。
航空業界は転勤が多いため、大手は全国に転勤者用の社宅を用意したり、マンションを借り上げたりして、家賃の大半を会社が負担するなどしているのだ。健康保険組合直営の保養所や指定保養施設なども各地にあるが、最近は経営再建の一環として、一部でこうした従業員サービスのスリム化を図る動きも出ている。
自律的な能力開発をバックアップ
日本航空と全日空の総合職を例に、航空業界の教育研修制度のあらましを見てみよう。
日本航空の人材育成の基本方針は、「広い視野、高い視点、豊かな人間性や感性により、企業を取り巻く環境変化を洞察し、自らが組織のミッションや戦略を創り、多様な人材集団の指導にあたるとともに、グループ経営の枢要ポストを担い、目標を達成するプロ人材の育成」(同社入社案内より)。
そのために充実した教育・研修プログラムが用意されている。その体系は、①ビジネスプログラム、②キャリア開発プラン、③自己選択研修プログラムに分類される。
総合職においては、将来を担う人材を計画的、継続的に育成するため、ジョブ・ローテーション(職場異動)を通じた人材育成を基本とし、これに教育・研修制度を有機的に組み合わせた人材育成計画(総合職キャリアパス)が設定される。
全日空の人事理念は「挑戦する人材の創造」。これは、社員一人ひとりの成長の上にANAの発展があり、その発展の原点はお客様にこだわることであることを明言したものだという。
同社は個々人の自律的な成長を支援し、意欲と持ち味を活かす人材開発・活用を目指している。具体的には、「専門性を追求する人材開発」「意欲と能力を重視する人事制度」「自律的な能力開発をサポートする教育研修」の3つがメインテーマ。
たとえば、教育研修では、多様な自己選択型セミナー、各種自己啓発支援プログラム、そして、海外実務研修制度等を含む国際化研修などが用意される。
需要を見きわめ、効果的に座席を販売し、収入の最大化を目指す
「航空会社にこんな仕事があることは、学生時代にはほとんど知りませんでした」航空会社の販売(営業)の仕事についてこう語る。たしかに一般の人にとって、航空会社といえば飛行機のなかと空港が仕事の舞台、というイメージが強いかもしれない。だが実際は、他の業種と同じように販売部門があり、この部門が企業経営の生命線を握っている。
入社して約2年間、東京支店で個人客を相手に国際線の予約。発券業務(カウンター業務)を担当した後、同支店の販売計画部門へ異動した。
支店のなかには、上記のカウンターのほかに、国内販売、国際販売、法人販売など、旅行会社や企業・官公庁といった顧客相手の営業を担うセールス部署があるが、配属されたのは、それらの各セールス部署と連携を取りながら、計画的な販売を遂行していく国内販売計画課。担当したのは、国内線の「座席の調整業務」である。
大きくわけて飛行機の座席には、個人客を対象にオンラインや電話などで販売するものと、旅行商品の素材の一部として旅行会社へ販売するものの2種類がある。
「各旅行会社の仕入担当者様から、何日のどの便に何席くらい座席がほしいというリクエストが日々入ってきます。各社様とは四半期ごとにおおまかな座席の販売数を決めさせていただいていますが、時期や時間帯、方面などによっては座席が余ったり、逆に足りなくなったりと、状況は刻々と変化します。その動きをにらみ、各社様のご要望にできる限りお応えしながら、効果的に座席を販売し、収益の最大化を図っています。
たとえば羽田発着便にしても、札幌線などビジネスマンの個人客中心の路線もあれば、沖縄線などツアー(団体)客中心の路線もある。このように路線によって両者の需要は大きく異なるため、全日空では本社サイドで各便ごとに個人客と団体客の座席配分比率を航空座席需要予測システムにより管理している。しかし過去のデータをもとにして算出された配分だけでは、生き物であるマーケットの動きに柔軟かつ即時に対応できるとはいいがたい。
「マーケットの需要が強く、定期便だけで間に合わないときは、臨時便を出して対応しますが、そのオーダーを出すのも販売計画課の仕事です。
また逆に、需要の弱い路線や便に対しては、ツアー商品の投入や卸価格の値下げの検討などを提案して需要喚起を促します。そのため、マーケットの動きには常に目を光らせ、いつでも次の手が打てるように準備を怠りませんでした。席に座ると四六時中、パソコンの座席数の動きを目で追っていました」
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