目次

マイレージ特典の無料航空券って航空会社は赤字じゃない?

1.強力なマーケティングツールとなるマイレージサービス
無料航空券がもらえる人気のサービス
飛行機で飛んだ距離(マイル)をポイントとしてため、一定の基準に達すると無料航空券やアップグレード券(エコノミーからビジネスクラスヘなど、ひとつ上のクラスに乗れる)などの特典がもらえるマイレージサービス(正式には、FFP=フリークエント・フライヤーズ・プログラム)。会員制であるが、一般的に入会金や年会費は不要で、誰でもホームページ上などから簡単に会員登録できる。

日本でも人気の高いこのサービスは、1981年にアメリカン航空が始めたもので、優良顧客共頻繁に利用する乗客やビジネス客など収益性の高い乗客)を優遇し、囲い込むマーケティング戦略のひとつだ。アメリカンに続き、米国では間髪を入れず、ユナイテッド航空など大手がこのサービスを導入。

日本航空も米国では80年代前半に国際線を対象に同様のサービスを開始したが、会員は海外出張の多いビジネスマンなどに限定されていた。

日本国内においてマイレージに対する認知度が高まったのは97年春ごろから。日系大手各社が国内線も対象とした新プログラムを導入し、大々的なPRを繰り広げたことがきっかけだった。以降、日系各社の会員数は急速に増加、2006年9月時点の会員数は、日本航空「JAL マイレージバンク」が1921万人、全日空「ANAマイレージクラブ」が約1500万人を数える。

いまやマイレージは、航空各社にとって最も重要なマーケティングツールとまでいわれる存在となり、日本に定期便を乗り入れる大手航空会社のほとんどがこのサービスを導入済みである。旅行雑誌の読者調査などを見ても、マイレージの充実度と使いやすさは、航空会社選択の最も重要な基準のひとつとなっている。


提携会社も大幅に拡大
90年代後半から相次いで始まった、航空会社の世界規模でのアライアンス結成も、マイレージの提携によるサービス改善、およびそれによる集客が主要目的のひとつだった。

マイレージがスタートした当初は自社便の搭乗でポイントをため、自社便に無料で乗るというスタイルが基本だったが、アライアンス結成後は加盟各社間でポイントの相互加算と特典の相互利用が可能になり、使いやすさが向上した。

航空会社以外の提携会社も増える傾向にある。提携会社は、ホテルチェーンやレンタカー会社、クレジットカード会社などが中心だが、日系2社は実に多様な業種と提携関係をもち、日常生活のさまざまな場面でポイントがたまるしくみを築き上げた。

その範囲は、電話、インターネットプロバイダー、レストラン、タクシー、証券、銀行、保険、住宅購入・賃貸、引越、雑誌購読など多岐にわたる。加えて、全日空のプログラムでは電子マネー「エディ」(利用可能な店舗数は約4万軒)の利用でもマイルがたまる。

クレジットカードから電子マネーヘのチャージの際にもマイルが加算される。よって、飛行機に乗る機会が少なくても、日常生活のなかでマイルをため、特典に交換することが可能なのだ。一方、特典の種類もバラエティ豊かで、無料航空券やアップグレード特典はもとより、航空会社によっては、ホテル宿泊券、レンタカー利用券、航空券購入等に使えるクーポン券、電子マネー、旅行グッズや特産品など、さまざまな特典が用意される。

ところで、無料航空券などの特典を提供するこのシステムは、 一見すると航空会社の経営を圧迫するように見えるかもしれない。飛行機が毎日有償客で満員なら、確かに大きな負担になるだろう。だが一部の例外を除き、マイレージは空席の有効利用であり、航空会社はミールサービス分プラスアルファ程度のコストを負担するだけで済む

また、特典用に用意される座席数は、過去の空席状況などをもとに各社が便ごとにコンピュータで細かくコントロールしており、基本的に無料航空券の利用が収益を圧迫することはほとんどないといわれる。

そればかりか、異業種各社と提携関係を結ぶことで、航空会社は収入を得ているのである。提携会社はマイルがたまることをうたい集客効果を上げる見返りとして、一般的に航空会社に相応のコミッションを支払うしくみになっているからだ。

つまり、航空会社は提携会社にマイルを販売しているわけで、これはひとつのビジネスである。海外ではマイレージサービスを担当する部門を子会社として分離・独立させ、事業化する動きも一部で始まっている。

余談だが、会社の出張でためたマイルは誰のものか、という議論がある。業務渡航だけに、ためたマイルを私的な特典旅行に自由に使えるかどうかは、意見が分かれるところだ。海外では裁判に至るケースもあり、たとえばドイツでは、「出張でためたマイルは雇用主に属し、個人使用は認めない」との判決が06年春に出ている。

ただ最近は、乗った本人の口座に従来通リポイントが加算されると同時に、雇用主(会社)の口座(別途申し込みが必要)にもポイントが加算され、特典と交換できる企業向けプログラムを導入する航空会社もある。

さて、人気のマイレージだが、最近は一部で無料航空券の特典に必要なマイル数の引き上げやアップグレードの対象となる予約クラスの制限強化、あるいは発券や変更手数料の値上げなどが行われ、以前に比べると使いづらくなってきたとの声も聞く。

また、マイレージ先進国の米国では、上級会員を含めて、マイレージ会員として享受できるメリットよりも、運賃の安さを最優先して航空会社を選ぶ傾向が強まっているとの指摘もある。誕生から四半世紀を迎えたこのサービスが、今後どのように形を変えてゆくのか、あるいはサービス自体が次第に何か別のものに取って代わられるのか。利用者には恩恵の大きいサービスだけに、その行方が注目される



2.マイレージの上級会員は大切なお客様
無料航空券がもらえることから人気のマイレージ。ほとんどのプログラムは誰でも無料で会員になれるが、多くの航空会社は会員にいくつかのレベルを設定、搭乗距離や搭乗回数などで各社が定める基準に達するとステータスが上がる。

これが上級会員(エリート会員、プレミア会員などとも)のシステムだ。たとえば、JALのマイレージバンクには、基本的にクリスタルから、サファイア、ダイヤモンド(最高レベル)まで3種類のステータスがあり、レベルに応じて搭乗ごとに規定のボーナスマイルがついたり、空港の専用ラウンジが使えたり、国際線のアップグレード券がもらえたりとさまざまな特典がつく。

全日空やその他の大手航空会社もこぞってこの制度を導入しより魅力的な特典で自社の上級会員を増やそうとしている。

マイレージはもともと頻繁に利用してくれる乗客に付加価値を提供、自社便へ囲い込むために誕生したサービスだが、上級会員はいわばお得意様のなかのお得意様。航空会社の収益アップには欠かせない重要な存在だ。

一般的に商売には、「上位2割の優良顧客が利益の8割をもたらす」という傾向があるようだが、各社の上級会員はまさにこの上客にあたるのである。

上級会員の多くは、必然的に業務渡航者となる。そこで、各社は出張の多いビジネスマンのニーズに沿った特典を上級会員に提供、囲い込みに余念がない。最上位の上級会員には、便が完全に満席でも、一定の条件のもとで必ず予約できる「座席保証」の特典を用意する航空会社もある。

キャンセル待ちでも上級会員は優先されるため、スケジュールの変更も多いビジネス旅行には、かなり有効なステータスといえる。観光などでたまにしか飛行機に乗らない一般会員にはメリットが見えづらいかもしれないが、一度手にすると、その利便性からこれを手放せず、更新を続ける上級会員が多いとか。各社の狙いはまさにそこにある。
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