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滑走路の長さが4000mないと国際空港とは認められない

1.空港によって滑走路の数や長さが違う
空港によって滑走路の数や長さが違うひと口に滑走路といっても、長さや幅、設置されている本数などは空港によっていろいろです。
大型の旅客機が離着陸するためには長くて広い滑走路が必要ですし、国際空港のように各国から数多くの便が飛来する空港では、滑走路の本数は多いに越したことはありません。複数の滑走路が機能すれば、それだけたくさんの便を誘致できるからです。
日本の空港の滑走路について調べてみましょう。

国際空港からローカル空港まで
日本の空港でもっとも長い滑走路は、成田空港のA滑走路と関西国際空港のB滑走路で、長さはどちらも4000メートル。幅はそれぞれ60メートルあります。

また滑走路の本数でいうと、もっとも多いのは羽田空港の3本。冒頭で述べたように、滑走路の数は多ければ多いほど便利で、羽田ではさらにB滑走路に並行する4本目の滑走路建設もスタートしました。2010年にこの4本目の滑走路が完成すると、年間処理容量がそれまでの約27万回から約40万回へと大幅に増えることになります。これらの主要空港を含めて日本には約100の空港(または飛行場)があり、「第1種空港」「第2種空港」「第3種空港」などに分類されます。

そのうち国土交通省が設置・管理し国際路線にも利用できるのが第1種空港で、成田、羽田、伊丹、関西国際中部国際の5空港がそれに該当します。

さらに国が設置・管理し主要な国内路線に用いられる空港および国が設置して地方自治体が管理するのが第2種空港で、新千歳、仙台、秋田、新潟、広島、高松、福岡、那覇など。第3種空港は設置・管理とも地方自治体が行い主にローカル路線で使用される空港で、オホーツク紋別、青森、花巻、福島、佐渡、富山、鳥取、与論、石垣などが該当します。

いずれも設置母体と管理母体による分類ですが、それぞれの空港のもっとも大きな違いは、やはり所有している滑走路の規模(長さ)でしょう。では、滑走路の長さは実際にどのようにして決まるのでしょうか?

米線に必要な3,000メートル滑走路
日本の航空法では、旅客機の機種ごとに「発着可能滑走路長」が決められています。
これは、それぞれの機種の離着陸に必要な滑走路の長さを定めたもの。原則として、たとえば小型ジェット機のベストセラーとなったボーイング737では2,000メートル以上、ジャンボ機747なら2,500メートル以上の滑走路が必要とされています。

しかし、これはあくまで基本となる数字だと考えてください。
2,500メートルの長さの滑走路があれば、ジャンボ機の運航に常に十分だという意味ではありません。
国内の短距離路線を飛ぶなら2,500メートルの滑走路でOKなので、秋田、松山、宮崎などの地方空港でも離発着が可能です。

しかし、日本からアメリカやヨーロッパへ向かうには3,000メートルの滑走路がなければ離陸できません。そうなると必然的に、成田や羽田、関空などのほか新千歳、広島、鹿児島、那覇といった3,000メートル滑走路をもつ空港を選択しなければならないことになります。

燃料満タンでは400トン近くにも
おなじボーイング747を運航するのに、なぜ国内線と国際線で必要な滑走路の長さが違うのでしょうか。
搭載する燃料の量が変わってくるからというのがその理由です。大型機の燃料タンクの容量は、747の場合で約23万リットル。大きなドラム缶に換算して1,000本以上にもなります。

乗客の人数や貨物の量で変動はあるものの、東京/札幌線で運航する747の必要な燃料を積んだ状態でのトータル重量は250トン程度。その同じ機材を東京/ニューヨーク線で運航する場合は、400トン近い重量になります。

燃料をほぼ満タンにして飛ぶ国際長距離便では、機体重量が重くなり、離陸するために必要な滑走距離も当然長くなります。地方に暮らす人たちの多くは「できれば自分たちの住む街から直接、アメリカやヨーロッパに飛びたい」と思うようですが、残念ながら日本の地方都市ではすべての空港が3,000メートルクラスの滑走路を有しているわけではありません。どの地方空港も、滑走路の延伸計画が持ち上がる際にかならず3,000メートルを最終目標にするのは、理由があります。


2.どれだけ長い滑走路を多く持てるか
通常、国際空港に4000メートル級の滑走路が必要とされる。これだけあれば、ボーイング747ジャンボ機のような燃費の悪い機体でも、世界中へ飛べる。この数年、航空機の中型化や小型化が進み、エンジンの燃費効率があがっているため、3,000メートル滑走路で十分だとの声もあるが、貨物輸送などは別だ

貨物の場合は、新しい機体を購入し、減価償却していくより、古い大きな機体で運ぶほうがコストパフォーマンスがいい。また、近頃は総二階建ての航空機エアバス社のA380も出現。

B747を抜く史上最大の旅客機と話題になった。世界の基幹国際空港には、そのための大きな滑走路やエプロン(駐機場)も必要になっている。

いずれにしろ、国際基幹空港は、どれだけ長い滑走路を多く持てるか、という点が発着能力の指標になる。
この点、騒音問題などで拡張がままならず、面積の狭い成田などは、かなり不利になる。本腰を入れて空港整備に乗り出したアジアの主要空港に成田が劣っている要因は、そんなところにもある。

この数年、アジアの空港は熾烈な拡張競争を極めてきた。五輪ブームに沸いた中国では、3800メートルと3200メートルという二本の滑走路を持つ北京首都空港が、07年に3800メートルの第三滑走路をオープン。すでに06年の発着実績で37万6643回を達成しているが、08年の最終実績は、50万回近くになるのではないか、と見られている。

中国、シンガポールを追いかけるマレーシア、タイ、台湾加えて、上海では従来の虹橋空港を国内専用空港に特化し、1999年に国際線向けの浦東国際空港を開港、フランス人デザイナーによる4000メートルと3800メートルの平行滑走路の斬新な設計が話題を呼んだ。浦東国際空港は、最終的に4000メートルの平行滑走路を三本並ばせ、3800メートルと合わせた4滑走路体制の計画が進行中だ。

浦東空港では、空港と都心部をつなぐドイツ製の「上海リニア」が運転を開始し、空港の発着処理能力は成田をしのぐ32万回を見込む。中国は、ほかにも広州白雲や香港といった国際空港を抱え、アジアのハブとして一歩先んじているといえる。

おまけにアジアのハブ空港争いは、韓国や中国に限った話ではない。アジアでオープンスカイ政策の先陣を切ったシンガポールは、チャンギ空港を擁する。アジアで初めて米国とオープンスカイ協定を結んだ基幹空港は、4000メートルの滑走路を二本持つ。

さらに2008年、6000万人の需要に対応するため、3つ目のターミナルビルを建設した。これにより第1、第2ターミナルと合わせた年間の乗客取り扱い能力は、6670万人に空港の利用客が、シンガポールの国内人口の実に15倍を超える。

まさしくチャンギ空港は、アジア各国に多くの人やモノを運ぶ空の拠点となっている。経済効果という点から先の国際コンベンション開催件数を見ると、シンガポールは05年に世界15位にランクイン。これまた日本の17位を上回っている。

その他、マレーシアのクアラルンプール空港やタイのスワンナプーム空港、台湾の桃園空港など、アジアの空港整備は急ピッチで進んでいる。とりわけ、06年に開港したタイのスワンナプーム空港の旅客ターミナルビルは、世界一の規模を誇っている。成田の三倍という広大な敷地に132メートルという世界一高いガラス張りのランドマークタワーがそびえ立つ。



3.滑走路の使い方に潜む大きな無駄
2本の滑走路の使い方にも問題が残る。成田では、ABの二つの滑走路を別々にみなし、航空会社の権益を振り分けている。これが世界の主要空港と成田空港との違いだ。通常の国際空港では、AB二本の滑走路があった場合、航空会社がどちらでも使えるようにトータルの発着枠を与えている。管制がその都度、どちらの滑走路から離着陸するか指示するわけだ。そのほうが効率がいいからなのは、いうまでもない。

だが、成田のA滑走路では、総発着枠の13万回について、JALに27パーセント、米ノースウエスト航空に13パーセント、ANAに13パーセントと振り分けている。B滑走路の6万回についてはJALが17パーセント、ノースウエストが4パーセント、ANAが18パーセント、といった具合だ。

結果、航空会社は、それぞれ決められた滑走路の発着枠内でしか、飛行機を飛ばせない。ここに大きな無駄が生じているのである。仮に短いB滑走路では、ボーイング777以上の大型機が離着陸できない。そのため、大型機の欧米向け長距離便は、4000メートルのA滑走路に頼らざるを得ない。反面、小型・中型機なら、B滑走路でも十分対応できる。

ところが、初めから使う滑走路が決められているため、A滑走路で中小型機を飛ばしているケースが週に591便もある。年間にすると、3万近い中小型機の近距離便がA滑走路を利用しているのだ。結果、本来なら欧米向けに飛べる大型機の長距離路線の枠が減っていることになる。

現在、成田には欧州路線の就航需要が大きい、とされる。仮にA滑走路の3万便をB滑走路に移せば、その分、発着枠に余裕ができる。滑走路をシェアするだけで、人気の欧州路線が新たに就航可能になるのだ。

なぜこんな単純な計算ができないのか。その理由が分からない。あえて理由を探せば、すでにA滑走路に大きな権益を持っている航空会社にとって、新たなライバル路線が増える結果になりかねない。だから非効率なまま、空港運営にクレームをつけないのかもしれない。が、成田の効率化という点を考えれば、やはり検討すべき課題ではないだろうか。

世界の自由化競争に取り残されているとさんざんに言われる成田空港。騒音問題を含めた地元近隣対策をはじめ、運営次第でまだまだ使える部分があるのは間違いない。しかし、現状では、それすらやっていないとしか思えないのである。

成田を日本の国際基幹空港として現状のまま使おうとすれば、せめてこれぐらいの創意工夫が必要だろう。成田空港は3000億円以上の近隣対策費を投じてなお、世界の競争に乗り遅れているのだから。もっとも、これが関空となると、さらに苦しい。


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