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旅客機のシート(座席)に縛り付けられるので快適性が一番大事

1.シートとレイアウト
客船や列車と違って旅客機の旅では、私たち乗客は飛行中は行動の自由が制限されるから、シート(座席)と最も縁が深いと言えるだろう。国際線では10時間以上もこのシートに縛り付けられることになる。最近ではシートの快適さが、航空会社の重要なセールスポイントにさえなっている。

客室用シートには、乗客用とスチュワーデス(スチュワード)用があり、ラウンジが設けられている機体では、ラウンジ用の乗客シートも別に装備されている。

乗客用シートには、ファースト、ビジネス、エコノミーの各クラス用がある。いずれも肘掛けの部分には、音楽や映画、ビデオ、テレビの音声を楽しむためのコントロールボックスが付いている。ここにオーディオの音量調節ダイヤル、チャンネル・セレクター、ヘッドホン・ソケット、客室乗務員コールボタン、読書灯スイッチが組み込まれ、灰皿やシート・リクライニング・ボタンも肘掛けに装備されている。エアコンディション・ボタンが付いているものもある。

最近ではファースト、ビジネス用に液晶画面の、プライベート・スクリーンあるいはパーソナル・モニター(映画を観たりゲームができる)を備えたものが普通になり、シートはますます多機能化している。

シート本体は、アルミ合金製の骨組みにクッションを組み合わせた構造で、軽く(飛行機にとっては最優先のファクター)、しかも安全な強度を保つように作られている。シートの布部分には不燃性に優れた素材が使われている。シートの値段は各クラスごと、2人掛け用、3人掛け用で違うが、ファースト、ビジネス用のオットマン(足乗せ台)付きで、60度以上も傾くリクライニングの、いわゆるスリーパーシートでは、100万円以上のものまである。

B747ジャンボのエコノミー用3人掛けシートを例に構造を見てみよう。まず2本のアルミチューブと、4本の支持金具をハシゴのように組み立て、前後のアルミチューブの間に3人分のアルミ製座板をわたし、これに前後各2本の脚を立てるというのが基本構造だ。これをベース台枠と呼び、これに支持金具の後端を利用して3人分の背もたれ、4本の肘掛け部、シートベルトを取り付け、1組みを構成する。この骨組みの座部と背部にウレタンフォーム製のクッションを装着して、シートは組みあがることになる。

シートベルトは腰用だけの2点式だ。コクピット用のシートでは、肩掛け用もある3点式になっている。ここでコクピット(操縦室)のシートに触れておくと、コクピットにはパイロット用と航空機関士(フライト・エンジニア)用のシートがある(最近では航空機関士がいない機体が多いが)。これらは客室用とはまったく違う機能を持っている。

前後、上下に動く(電動式)と共に、もちろんリクライニングの調節も可能だ。特に航空機関士用シートは、パイロットの仕事を補助できるように、床に設けられたレール上を移動でき、回転することも可能になっている。シートベルトは3点式のショルダーハーネスが取り付けられている。コクピットには他に2席のオブザーバー・シート(折りたたみ式)もある。

飛行中は私たち乗客はとにかく座りっぱなしだから、シートの座り心地がきわめて重要になる。最近では私たちも贄沢になって、比較的に狭いエコノミークラスのシートでは、疲労度も大きく感じるようになった。シートの善し悪しで航空会社の格が決まると言う人も多くなった。そこで各社とも座り心地の研究、いかにリラックスできるかの研究に余念がない。

座り心地は、シートの座面の高さ、傾斜、奥行、クッションの具合によって決まるとされている。シート・メーカーと航空会社は協力して、軽量で丈夫で、なおかつ座り心地の良いシートの開発を続けている。最近では、ビジネスクラスが航空会社のショーウィンドウと言われるほど注目されており、各社とも豪華、多機能のビジネス用シートで激しい競争を演じている。

確かにファースト、ビジネスのシートは、あらゆる乗り物の中で最高の水準に達している。乗客の希望としては、エコノミーのシートをもう少し向上させてほしいところ。あのシートで10時間以上の国際線はつらい。

次に座席配置、シートのレイアウトだが、客室用のシートは床面に設置されたレール(シート・トラックという)の上に固定され、使用用途(クラス)によってそのシートの前後間隔(ピッチ)を任意に決定することができる。

ファーストで40インチ(1m)、エコノミーで34インチ(86cm)のピッチが標準とされてきたが、これは航空会社によって異なる。最近ではとにかくリラックスがテーマになっており、ビジネスで50インチ(127cm)以上、ファーストで55インチ(240cm)以上を誇るところも出てきた。

シートを客室内にどのように配置、レイアウトするか(シート・コンフィギュレーションという)は、安全性、快適性、そして経済性の面からきわめて重要なファクターだ。

旅客機の標準シート数は、機種ごとにメーカーによって決められている。ところが、この基本どおりのシート数で機材を運航しているエアラインは、じっさいにはほとんどない。より個性的なシートを提供し、競争力を高めようという狙いが各社にあるからだ。

ボーイングの機種では、シートピッチ(座席の前後間隔)が1インチ(2.54cm)間隔で調整できるようになっている。通路が2本あるワイドボディ機では左右と中央のスペースにそれぞれ2本ずつ計6本の座席固定用レールをあらかじめ設置。

そのレール上に1インチ間隔でピス用の穴があいていて、2席並び、3席並び、4席並びといった座席ユニットを前後2か所で固定することが可能だ。その基本仕様にさえしたがえば、どんなシートをどうレイアウトするかはエアライン各社の自由である。

どれだけゆったりと快適な空間を利用者に提供できるか。それが顧客獲得のための競争力アップにつながるため、最近はさまざまな豪華シートも登場している。


2.劇的に変わるビジネスクラスのシート
国際線の機内サービスのなかで、このところ進化の歩幅が最も大きいのはシートである。なかでも各社の集客競争の主戦場となっているのがビジネスクラスのシートだ。ビジネスクラスの歴史はまだ30年ほどだが、当初、シートの大きさやピッチ(前後の間隔)などはエコノミークラスと大差のないものだった。

だが90年代半ばにノースウェスト航空とKLMオランダ航空が共同で、シートスペースとリクライエング角度を約1.5倍に拡大した「ワールド・ビジネスクラス」を導入したことなどから、シートの改善合戦に火がついた。

さらに2000年、ブリティッシュ・エアウェイズ(BA)が床に対して完全に水平になるフルフラットシートの導入を開始したことで競争が一段と過熱。

以降、各社がシートのフラット化を競い合った結果、現在は主要航空会社のほとんどが長距離路線を中心にフラットシートを導入、快適さが大きく向上した。

フラットといっても、多くの航空会社が導入しているのはライフラット(斜めフラット)タイプのシート。完全に水平にはならないが、160~170度程度にリクライニングした状態で座面と背面がフラットになり、眠るときは体をまっすぐに伸ばせる。その多くは前席の足元へ体が滑り込む形でフラットになるため、前のシートが倒れてくる圧迫感もない。手元のボタンひとつで、離着陸、食事、休息、睡眠などに適したポジションがとれる。

一方、フラットシートの先駆けとなったBAをはじめ、ヴァージンアトランティック航空、ニュージーランド航空などが完全にフラットになる新シートをビジネスクラスに導入済みだ。シンガポール航空やキャセイパシフィック航空も完全なフルフラットシートを長距離便へ順次導入する。

ヴァージンが04年から成田線へ導入している「アッパークラス・スイート」は、各席がパーテイションで囲まれた準個室仕様が特徴。すべての席からそのまま通路に出られるレイアウトも斬新だ。また眠るときには、シートを後ろに倒すのではなく、前に倒すことでベッドが現れるしくみになっている。この造りを採用することで、シートはソフトレザー、ベッドは通気性の良いファブリックと素材を使い分けることが可能となり、快適さが増した。

むろん、最新シートの売りはフラットになることだけではない。シート周りにさまざまな機能が装備され、機内の滞在をより快適にしてくれるこまやかな工夫が凝らされているのだ。

その中身は各社により多少異なるが、腰や背中のマッサージ機能(シート背面に内蔵)、隣席との間に設置するプライバシー保護用の可動式のパーテイション、ノートパソコン用電源などは定番のサービスといえる。雑誌や本をはじめ、ペットボトルや眼鏡、ノートパソコンなどのアイテムを収納するスペースも豊富だ。


全席通路側ってどんなシート
ビジネスクラスでは近年、2本の通路をはさんで「1-2-1」の横一列4席という配列がトレンドになっている。「1-2-1」とはつまり、全席が通路側だ。「プライバシーが守られるうえに、どの席からもダイレクトに通路へと出られるので、トイレに立つさいも隣の乗客を気つかう必要がない」と利用者からの評価も高い。

しかし各列4席配置だと、設置できるシート数は当然減ってしまう。このクラス特有のゆったりした広いシートピッチのままでは、従来の「2-2-2」に比べて、単純計算で3分の2しか座席数を確保できない。上級クラスの需要が伸びているなかで、売れるのに供給量が足りないというのでは、みすみすビジネスチャンスを逃してしまう。 そこで「1-2-1」配列の導入を模索する各社は、独自の工夫をシート設計に採り入れはじめた。

全席通路側の「1-2-1」配置でも必要な座席数を確保できるシートとして登場したのが、ふたつのタイプだ。ひとつは「スタッガード型」と呼ばれるもの。スタッガードとは英語で「ジグザグ」の意味で、180度水平に倒れるフルフラットシートを前後で「互い違い」の形でレイアウトする。ベッドにしたときに後ろの席の乗客の足が前の席の大型サイドテーブルの下にもぐりこむ設計にして、必要な座席数を確保できるようにした。

もうひとつが、進行方向に対してシートを斜めに配置した「ヘリンボーン型」である。ヘリンボーンとは「魚の骨」の意。キャビン全体を上から見ると魚の骨のように見えることから、この名で呼ばれるようになった。「プライベート感が高くていい」 と、こちらも評価する声が少なくない。


3.旅客機のシートで快適な座席はどこ?
Yクラスの機内で一番快適な座席はどこなのだろうか
前面が壁のバシネット席(小さな子供用ベッドが取り付け可能)は足元が広くてよいという人がいるが、確かに空間は広いものの、足を伸ばしていたいという場合に窮屈感がある。というのも、前に座席がある場合は座席の下の奥まで足を入れて伸はせるためで、目の前の空間の広さを取るのか、それとも足を伸ばせるスペースを確保するかの問題になる。

次にドア前の空間が広い非常口座席の人気が高いが、ジャンボ機の窓側席の場合は扉の出っ張り(非常用のスライダーを収納している)が足を伸ばすのに邪魔で、通路側の席が一番ということになる。しかし、 ドア前はフリースペースなのでトイレ待ちの人が溜まったりし、落ち着いて寝ることができないという欠点もある。

また、座席内にテーフルが収納されているため、実際に座る座面の幅が若干狭く感じる。さらに、近年は個人用液晶テレビを装備した機材が多いが、普通の席であれば前の座席の背面に設置されているものが、座席の下から取り出すスタイルになる。食事の時などテレビの存在が邪魔になり、せっかくの映画を楽しみながらの食事も窮屈な思いをするようになるだろう。もちろん、目の前の広い空間、そして窓側席でも自由に動ける利便性は魅力だが。そして、一番大切なことは非常時に脱出の手伝いをするという条件があることで、海外の航空会社では英語が話せることが必要になる場合もある。

一般の座席ではブロック最後列の壁前(機材によってはドアの前)の席が人気だが、これは後ろの人に気兼ねなくリクライニングできるからだ。
ブロックの空間全体を見渡せるので広い感じもするが、一部の機材では壁があるためにリクライニング角度が小さいということもある。

そして、窓側または通路側の選択では、近距離なら窓側、中・長距離であれば通路側がベストだろう。中でも中央列の通路側は隣に人が来ないこともある上、内側の席の人が通路に出る場合でも両サイドを選べるので、寝ていて起こされる確率が低くなる。窓側に隣接した通路側では窓側の人が通路に出入りするたびに立つ必要があり、ゆっくり寝て行こうと思っても駄目な場合があるというものだ。

なお、事前座席指定できる席は限定されているので、後はWEBチェックインまたは当日空港に早く到着してのカウンターチェックインで希望の座席をゲットしよう。各社のホームベージにはシートマップも掲載されているので、事前に希望の席を第1希望から第3希望までチェックして持参するのがベストだ。


4.旅客機のシートに課された厳しい安全基準とは?
旅客機のシートは、なんといっても、座り心地、寝心地のよさと、安全性が第一条件だ。各社ともファーストクラスのシートは豪華だが、基本的構造はエコノミークラスのシートと同じである。

旅客機のシートは、まず安全基準をクリアしたものでなければならず、その安全基準に関してはどのクラスのシートであっても同じだからだ。この基準は国によって異なり、日本では、国土交通省が定めた基準にパスしたシートだけが機内にとりつけられる。

まず第一に求められるのは、衝撃が加わっても壊れない強度だ。強度の基準は、固定したままで重力加速度が前方9G、後方1.5G、上方3G、下方6Gの荷重に耐えられることが条件である。 Gとは地球の重力加速度の単位で、ふだん地上でわれわれにかかっているのは1Gだ。

2Gは自分の体重の2倍の力がかかることになる。 人によって体重が違うから荷重の大きさも異なるが、安全基準では、体重をもとに計算している。 戦闘機のパイロットがアクロバット飛行で受ける重力の限界が9Gで、それ以上になると心臓が停止するというから、この9Gがどれほどの荷重かわかるだろう。

飛行機の座席は衝撃に強く不燃性にすぐれ、快適に座ることができ、かつ軽量であることが求められる。これらの要素を満たすために、骨組みはアルミ合金でつくられることが多い。 飛行機の座席には安全基準があり、近年、その代表的なアメリカ連邦航空局(FAA) が定める安全基準が改められた。

座席にかかる動的加重は最大16Gに耐える必要がある。16Gとは時速約50kmから瞬時に0kmになったときに生じる減速度。このエネルギーを吸収し、乗客に与えるダメージを最小にしなければならない。最近では、骨組みにアルミニウム合金より軽く作れる炭素繊維強化プラスチックが用いられるようになってきた。

荷重にはシートの重さも加わるので、シートの素材には強度だけでなく軽さも求められる。そのため、骨組みはアルミ合金でつくられている。 そのうえ、シートには厳しい耐火基準が課せられている。火災が起きても燃えにくく、有毒ガスや煙が出にくい素材が求められるクッションには、不燃性の高いポリウレタンフォームや炭素繊維、カバー生地には燃えにくいウールが使われている。 こうした厳しい基準をパスした座席が、乗客を快適かつ安全にくつろがせてくれているのである。


5.座席にまつわる秘密
クッション材までクリーニング
飛行機は限りのあるスペースに最大限の乗客を収容する場合が多い。座席の前後間隔のみを記すと、ファーストクラスが80インチ(203cm)、エコノミークラスが34インチ(86cm)、エグゼクティフクラスが60インチ(152cm)両者の中間とされている。

座席の中に入れられているクッションはリサイクル可能な炭素繊維クッションが使われるようになった。座席の表面を覆うクロスには、抗菌・消臭作用のある光触媒が加工されたものもある。 ふだんなにげなく座っている座席ではあるが、大規模点検のときには飛行機からはずされ、シートカバーは取り外して洗浄され、中のクッション材までクリーニングされる。

旅行者血栓症
飛行機の座席については、近頃問題になっているエコノミー症候群という問題がまつわる。これは航空機の乗客に限っておこるのではなく、鉄道の乗客にもおこる場合がある。そのため、旅行者血栓症と言い改められる傾向にある。

原因は、長い時間座席に座り続けた結果、足の静脈に血栓(血液の塊)ができ、立ち上がって歩き始めたとたん、その血栓が肺に流れ、肺の血管を詰まらせてしまうというもの。最悪の場合は命を失ってしまう可能性すらある。

旅行者血栓症を防ぐには、体内の血液の循環を阻害するような、ぴったりとした服装は避ける。また、できるだけ足を動かすようにし、座席に座りながら足をのばしたり折り曲げたりして血流の増進を試みる。
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