目次

ショーアップってなに?クルーの問題や確認すること

1. ショーアップってなに?ショーアップできない理由
機長など運航乗務員の仕事のスタートは、オペレーション・センターに出頭するところから始まる。ただし、成田や羽田といったメインベース以外の空港や海外では、空港ターミナルにある航務課が出頭地となる。オペセンには航空会社の実動部隊が集まっていて、運航乗務員や客室乗務員、整備士、それに運航管理者などがピルの階ごとに仕事を行っている。

このオペセンという用語はJALが古くから使っていたものであるのに対し、後発のANA(全日本空輸)ではマネージメント・センター、略してマネセンと呼んでいる。ちなみにANAは、JALに対抗するかのようにパイロットやCAが使うマニュアル類においてもことごとく異なった用語を使っているので興味深い。

例えば、離陸時に機長が操縦梓を引き上げる時の速度VRについてJALでは副操縦士が ローテーションとコールするのに対し、ANAではブイアールとコールする。新興航空会社やLCCも、JAL系とANA系によってこれらのように異なった呼び方が継承されているのはある意味当然の結果であろう。余談はさておき、このようにオペセンやマネセンに出頭することを「ショーアップ」と呼んでいる


ショーアップカウンターには、当日の便名ごとにクルーのリストとショーアップ時刻が記載されている書類が置かれていて、各自はその中から自分の名前を見つけ横線を入れて消すことになっている。ショーアップカウンターの当直は、それを見て予定どおりショーアップしたかどうかの確認を行うことになる。ショーアップ時刻は、国際線では便の出発時刻の1時間45分前、国内線では1時間20分前と決まっている。その差はパスポートチェック等通関手続があるかないかである。しかし、ショーアップ時刻までにクルーがショーアップしない、あるいはできないことも時に発生する。

通勤途上での事故や大渋滞、それにクルー自身がスケジュールを勘違いすることも。乗務の予定を勘違いするとはとてもプロとはいいがたいと思われるかもしれないが、スケジューラーとのコミュニケーションに問題があったり、うっかりミスもある。所詮人間だからだ。

最大のショーアップトラブルは、やはり通勤途上での事故や大渋滞である。それに巻き込まれたらどうしょうもなく、なかなか脱出もできない。以前ならタクシー利用も認められていることが多く、渋滞を迂回することもできた。クルー、特にパイロットの通勤といえば黒塗りのハイヤーで送り迎えと世間の批判を受けたが、少し弁解させてもらうと、ハイヤーといっても名ばかりで、実態は黒い色をしたタクシーであり、業務提携している会社は契約料金も低く、流しのタクシー以下の料金であった。

国際線ではクルーバッグの中に路線マニュアルを2つ以上入れている。それだけでもかなりの重さになるが、長期間のフライトともなれば大型のスーツケースも必要だ。確かに物理的にはキャリアーで何とか運べるものの、公共交通機関では大変な労力が必要となる。現在では、どの会社も深夜早朝以外はタクシー通勤は認められていないようだが、ショーアップ遅れによる便の出発遅延、キャンセル、コスト、クルーの疲労などを総合的に考えればタクシー利用はかなり合理的な制度であったと思っている。

さて、このように様々な要因で発生するショーアップミスやトラブル、オペセンのカウンターでスケジュールを管理している職員にとってはいつも冷や汗ものである。一応不測の事態に備えてスタンパイのクルーはアサイン(勤務指示)されてはいるが、慢性的なパイロット不足の中でJALでもほんの数名しか確保できず、居住地も神奈川から千葉などと広い。

タクシーで直行しても大幅に遅れることもある。加えて、機長の場合、後述するが、路線資格の問題があり、例えばニューヨーク便の機長の代わりに米州路線の資格のない機長を充てるわけにはいかないのだ。そうなると、スタンパイの勤務もアサインされていない休日中のクルーにも白羽の矢が飛んでくる。電話を受けたクルーはもちろん休日だから乗務を断われるが、そこは会社員のつらいところ、「便が切れて大変なことになる」という殺し文句に嫌と言えないこともある。そこで気の弱いクルーの中には「すみません、もう一杯やってしまったので」と言って依頼を断わる者もいる。乗務からさかのぼって12時間以内の飲酒は違法となるので、そう言ってしまえばスケジューラーは必ず引き下がるからだ。

このような問題はJALでも日常茶飯事なのに、LCCなどの会社では一体どうしているのか気になってくる。とにかく人員に余裕がない運営の中で、昨今のパイロット不足である。とてもスタンバイクルーをアサインできる状況にはない。もっとも当事者の会社や国交省は、何かあれば便をキャンセルするだけで、それは格安の条件で利用者も納得済みだと言うのであろう。しかし、論理的には確かにその通りであるが、当日体調不良であってもつい無理して業務に就かないか、この点が心配になるのである。
さて、このような苦労を乗り越えてやっとショーアップしたクルーには、次にめまぐるしい作業が待っている。なお、制服への着替えや出張旅費の引き出しなどはショーアップの前に済ませておかなければならない。



2.ライセンス類などの資格確認
ショーアップしてまず確認することは、実際当日にアサインされた便に乗務できるか否かということである。乗務資格をクリアするためには次の事柄が必要とされる。その第一は操縦関連免許である。まずパイロットの操縦士免許は、車と異なり乗務する機種ごとの限定ライセンス制度となっている。

一般に自家用や事業用操縦士免許はセスナやパイパーなど機種は問わないで飛行できるが、エアラインのパイロットには事業用あるいは定期運送用操縦士技能証明書(機長としての国家資格でATRと呼ばれている)に加え、機種ごとに訓練審査を受けて取得するそれぞれの機種のライセンスが不可欠となっている。

これは操縦士が操作上2人以上の航空機に義務付けられている限定ライセンスと呼ばれるもので、およそ定期に運航される民間航空機の場合これに該当する。それは、機種ごとに通常操作と緊急操作を間違えることなく実施できる能力を担保させるためのもので、多くの乗客の命を預かるエアラインパイロットに求められるより厳しい免許といえる。このほか、エアラインの航空機を操縦するためには航空無線通信士の資格や航空英語能力証明(2008年から国際線乗務に適用)が必要である。これら免許類は期限付きではないが、実際にエアラインで乗務するためには1年に一度の定期審査(最近まではシックスマンスチェックと呼ばれるように6カ月に一度)に合格し、かつ会社が国交省の指導の下に設定するいくつかの訓練を指定した期間内に終了していることが有効の条件とされている。

航空英語能力証明は以前にはなかったものであるが、管制官との間でコミュニケーションが上手くいかなくて事故になった世界の事例などによって国際的に取り決められた免許である。その代表的な事故に1990年にアメリカで起きたコロンビアのアピアンカ航空機事故がある。

事故は、ニューヨークのジョン・F・ケネディ国際空港に進入中、空港の北約24キロの地に墜落し、乗客乗員158名のうち73名が死亡したものであった。直接の原因は、悪天候の中、何回も進入を試みたのだが、上空待機が合計1時間17分に達し、燃料切れとなって全てのエンジンが止まったことによるものである。

しかし、当時、パイロット達は燃料が少なくなっていることを知りつつ、他の航空機より順番を早めて進入を始めることを、英語力の不足によって管制官に十分に伝えられなかったことが大きな背景にあった。このようなケース以外にも不安全要素は依然我々の身近にも存在する。

例えば、現在でも中国やロシア上空をはじめとする空域では、パイロットと管制官のやりとりは英語を使わず自国語が多用され、我々外国機にとっては不安材料となっている。それは、我々にとってどこの空域でどの高度に他の航空機がいるのか分からなくて、空中衝突やニアミスを防ぐことができないという状態を意味するのである。この状態に対しては、パイロットの国際的組織のIFALPAも改善を求めていたこともあり、2008年に英語力を証明する免許制度がスタートしたわけである。

ただし、我が国でもそうであるが、この免許取得には英会話テストでグレード4(最高で6)以上が最低条件でありながら、実際にはそれまで国内線しか飛んでこなかったクルーに対して不合格になっても、何度も再試験を行いパスさせたように、国々のレベルや運用は一律ではない。
英語での航空用語の正確な理解はこのように他機の情報を入手するだけでなく、その当該機にとっても非常に重要である。
日本の航空会社もJALに続き国際線にどんどん進出している。

いくら技能が優秀とされても、クルーには健康な心身の状態が要求され、機長の場合、年に2回の検査による第一種航空身体検査証明書が必要とされてきた。
特に我が国では1982年に起きた日航機の羽田沖事故(一般に機長の逆噴射と呼ばれている)を契機に、世界で最も厳しい基準になり、これが現在のパイロット不足の原因の一つとなっている。

それを代表する例が事故とは何の関係もない循環器系についての基準の改定であった。例えばブラ(肺胞内のう胞)が見つかれば乗務不可とされるようになったが、そのことによってパイロットが開胸手術をさせられた。その中の1人に手術の傷跡を見せられたこともあるが、それは目を覆いたくなるほど縦に長く、かつ深いものであった。
それから、ようやくブラは飛行の安全性に関連はないと、検査項目から削除された。

では、あの時手術か地上職への転換かどちらを選ぶかとパイロットに迫ったのは、一体何だったのかと言いたくなる。事の真相は、航空身体検査証明書(ライセンス)を発行する一般財団法人航空医学研究センター(国土交通省特例民法法人)の医師や官僚が、何かあれば自分達の責任になるので、検査項目は厳しくさえしておけばよいとの判断があったようだ。

この免許もごく最近1年に一度の検査に合格すればよくなったものの、現在の基準ではスーパーマンを求めているとしか思えない。何のためにコックピットには2人のパイロットがいて、不測の事態への訓練を行っているのか。せめて欧米並みのリーズナブルな基準に改定してもらいたいと願っているものだ。

乗務に必要な資格要件、路線資格がある。機長が定期便に乗務する時には、当該路線と目的空港などへ過去にさかのぼって1年以内に1回のフライト、しかも離陸と着陸両方の経験が必要とされる。仮に実機での経験が1年以上遠ざかると、シミュレーターやビデオでの学習または他の者が操縦する使でオブザーブといわれる慣熟フライトを経験する必要がある。ただし、不定期便や臨時便の場合は、AIPと呼ばれる目的地の空港と当該国のルールを事前学習すればよいことになっている。

このような路線資格はもちろん個人個人で管理して、期限が切れたら自己申告して、オブザーブなりビデオなどでの教育を受ける必要があるのだが、会社としてもコンピュータを使い厳重に管理している。その中には路線資格だけでなく、過去90日間に3回の離着陸の経験や夜間の離着陸経験など航空法の要件、それにこれまで述べてきた各種ライセンスやパスポートやピザの有効期限まで全てが入力されている。

そして更新については、本人に前広に連絡をつけるようにされている。このように様々な乗務資格があるため、ショーアップデスクには乗務管理課の職員が当直として勤務し、仮にスタンパイのクルーが起用されることになれば、その者の乗務資格に問題があるかどうかをチェックすることになって万全を期しているのである。そして機長が2名乗務する長距離便では、どちらがPIC(パイロット・イン・コマンド)をとるのかを決定するのも役割だ。

PICとは、飛行計画にサインして機の指揮をとる責任者のことであり、先輩後輩や年齢、それに入社時期などとは関係なく、ジェット機の総飛行時間や当該型式での機長経験時間などによって決定される。さらに一応この基準によって決められていても、出発前に目的地の天候が悪化するなどの要因で急逮PICが変更されることもある。これは、悪天候下では進入・着陸時にカテゴリー別に最低降下高度や最低視程が決められ、機長の資格によって異なっているからだ。

例えばA氏はカテゴリーI(視程600メートルまでの進入)の資格しかないのに対し、B氏がカテゴリーⅡやⅢ(視程が600メートル以下0メートルまで)の資格を有するとしたら、B氏をPICとしてアサイン(指名)した方が着陸できずに引き返すことの可能性が少なくなる。

PICのアサインはこのように合理性を持ったものであるが、時にもめ事も発生する。それは、先に述べたように、1人がスタンパイや休日返上で業務にアサインされた時にしばしば起こる事態だ。交代乗員なしでの国際線や国内線で、1人が副操縦士役を行わねばならない場合である。本来は副操縦士がその任務に就く予定が、当人の急病などで副操縦士の代わりに機長が呼び出され、副操縦士役の業務をアサインされるとどうなるか。

その機長がオリジナルの機長より資格も入社も大先輩でベテランの場合、「なんでオレが後輩の若い機長の副操縦士役をやらなければならないんだ。ピンチヒッターで業務には就くが、オレをPICにしろ」と言う者も。一方、最初からPICとしてアサインされていた機長からしてみると、それが変更され、自分が副操縦士役にまわるとなると不満が生じる。というのも、PICは運航の責任を持ち、緊急時には最善の指揮をとる任務がある一方で、やはりコックピットの中では自分の意思で何でも判断し、オペレーションしたい、その方がストレスにもならない、あるいはお山の大将でいたいのが本音である。

しかし、両者が納得して気分良く乗務に就かないと、コーディネーション(協力関係)にもひびが入り、ひいては安全運航にも影を落とす結果にもなる。その意味で、乗務管理課や当直のスケジューラー達の調整能力が大いに試されることになるのである。

ちなみに、長距離路線、例えば飛行時間が11時間を超すニューヨーク直行便やヨーロッパ線などでは交代してレスト(休憩)をとる必要から、機長2人と副操縦士1人の計3人のパイロットで運航されている。その場合、先に述べたPICと次に責任と指揮順位を持つ機長、これをSIC(セカンド・イン・コマンド)と呼ぶが、この2人の関係について述べておきたい。

仮にPICがレストに入っている時には、コックピットの中はSICの機長と副操縦士の2人だけだ。その時に何かトラブルや緊急事態が発生すると、SICの機長が自ら判断を下して操縦することになるが、その結果、仮に事故になったり重大インシデント(異常運航)と認定される結果になった場合、責任はSICとPICどちらが取るのかという問題が発生する。PICはレストでコックピットにいないので、何の指示も出せず、自ら操縦したわけでもないので結果責任を押し付けるのは不合理となる。正解はSICである。もちろんPICがコックピットに戻り、SICの機長に代わり自ら操縦することも自由だ。

まとめると、PICは飛行計画にサインしてフライトの全般に責任を持つのであるが、実際の操縦ではSICが機長の仕事を務めることもある。

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