航空機の飛行に伴う三次元の運動を、地上でそっくり模擬再現して操縦訓練を実施できる装置が、フライト・シミュレータだ。日本語では模擬飛行訓練装置というが、操縦訓練や技量保持だけではなく、研究開発にもフライト・シミュレータは使用されている。
また航空機だけではなくスペースシャトルなど宇宙船・宇宙機でも、乗員訓練にフライト・シミュレータは活用されている。
訓練用のフライト・シミュレータは、実際の機体とまったく同じに作られたコクピットと、モーション・システムを備えており、実際の飛行とそっくりの状況を体験することができる。
飛行状況に伴う前後、左右、上下、ピッチ、ロール、ヨーといった機体の動き、エンジン音などを人工的に作り出し、飛行中にコクピット・クルー(運航乗員)が感じるそのままを再現して、実体験させることができるシステムだ。
フライトシミュレーターは、実機のデータをシミュレーター用コンピュータに入力し、航空機のさまざまな動きを地上で忠実に再現するもの。操舵やレパー操作による機体の細部にわたる反応を、実機での訓練と同じような感覚で体験できる。
身体に感じる動きもとてもリアルで、操縦席に伝わってくる振動や圧力は実機と変わらない。操縦梓や計器類にとどまらず、CGによる3D映像で窓に映し出される風景も、フライト時の目印になるような建造物などを含めて本物さながらだ。
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さらに実機の訓練では体験できない、火災やシステムの故障、ニアミスなど緊急事態の訓練も可能になっている。コンピュータやビジュアル・システムの発達によって、機体の動きだけではなく、有視界飛行や地上走行中の外界の様子もリアルに再現できるため、フライト・シミュレータによって訓練の効率と精度が大幅に向上している。
飛行ルートも訓練ごとに細かい設定が可能だ。設定画面を操作すると世界各地の主要空港や空域がリストアップされる。天候データも何種類も入っていて、各空港への夜間着陸や悪天候時のアプローチなど、いろいろな状況をつくり出すことができる。
実機を使った訓練では、誤操作などによる人員・機体の損失の心配があるし、天候などの理由から訓練に限界もある。しかしフライト・シミュレータでは、ぎりぎりの限界まで(
墜落まで)体験できるし、24時間いつでも訓練できるメリットがある。
実機を使う訓練の10分の1の経費で済むし、訓練時間も節約できる。最近ではコクピット・クルーの訓練・審査に占める、フライト・シミュレータの比率は大幅に増大している。
将来は実機の訓練なしで、フライト・シミュレータのみの操縦訓練だけで、パイロットを養成できるという極論さえあるほどだ。
これだけフライト・シミュレータの比重が増した背景には、ビジュアル・システムの飛躍的発展がある。これは航空機の姿勢や位置に応じて、窓外に現実そのままのリアルな風景を映しだすシステムだが、かつては離
着陸時に撮影した風景を窓外に投影したり、空港周辺のミニチュア・セットを撮影して再現するといった手法が取られていた。
しかしこれでは各種の気象条件や、朝・昼・夕方・夜の微妙な光の変化などまでを再現するのは無理だった。しかし現在では
コンピュータ・グラフィックスによるリアルなイメージによって、地形、建物、灯火、他の航空機、気象条件、時間的条件、地上の車両までを、現実そのままに窓外に再現できるようになっている。しかも操作に対応して画像が正確にシンクロするから、パイロットは文字通りの飛行を模擬体験できる。
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