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観光産業に重要な航空会社と旅行会社の関係は徐々になくなる

1.観光産業は航空の強い味方
航空産業は、観光産業によって大きく支えられています。日本において観光はこれからも大きく成長していくことが期待される分野であり、それによって航空需要も喚起されます。

従来の日本では、観光が経済振興のための手段として高く評価されるということはあまりありませんでした。明治以降、先進国に追いつき追い越すために、懸命に働くことが何よりも重要視されてきた日本では、物質的豊かさを満たす製造業の促進に主眼が置かれてきたのです。

その反面、余暇は労働を支えるための2次的かつプライベートな時間でしかありませんでした。つまり、余暇の過ごし方などを、国家的に考える必要はまったくないと見なされてきたのです。

さらに言えば、既得権益の少ない観光産業は、行政としてもその裁量権を発揮できないことから、あまり面白みのあるものとは思われませんでした。そのため、観光政策を担当する行政局は、他の部門よりも一段低いものとされる傾向があったのです。

しかし、こうした状況は大きく変わってきました。長引く経済不況の突破口が模索される中、諸外国と比べた場合、いまだ十分に開発されていない観光部門に強い関心が寄せられたのです。


2.1964年海外渡航の自由化始まる
旅行業の発展は、交通機関の発展と足並みを揃えている。
1956年(昭和31年)の経済白書では「もはや戦後ではない」という言葉が叫ばれたように、日本経済は朝鮮戦争特需を機に順調に復興。1964年(昭和39年)には、東京オリンピック開催に向けて東海道新幹線が開通した。

旅行業にとってきわめて重要な年が、この1964年(昭和39年)である。この年、これまで外貨準備目的のために制限されていた海外観光渡航が自由化され、誰もが海外旅行に出かけられるようになったのだ。

この年4月、日本交通公社主催の「ヨーロピアン・ジェット・トラベル」(17日間71万円)が第一陣として出発した。

1970年(昭和45年)の大阪万国博覧会開催とジャンボジェット機の登場は、旅行業の第一次黄金期のきっかけとなった。大阪万博には、半年間に国内、海外合わせて6400万人余りもの観光客が入場。世界各地の華やかなパビリオンにより、日本人に海外への興味を与えることにも成功。従来の2倍以上の座席数を持つB747ジャンボジェット機の登場に後押しされて、70年代前半を通じて、海外旅行者の数は飛躍的に増加。1968年(昭和43年)に34万人だった海外旅行者数が、1973年(昭和48年)には228万にまで増えている。

旅行会社の収益は、それまで主に航空券などの販売手数料が中心であったが、60年代末頃から航空券や宿泊、観光素材を旅程に組み込んだ「パッケージツアー」を企画・販売。次第にその販売や商品の販売手数料が中心に変わっていった。

こうした収益構造の転換により旅行業が発展する礎となったのが、新しいビジネスモデルである「パッケージツアー」だった。自らの企画で魅力あるコースを考え、価格を決める旅行主催者になることで、総合旅行産業としての地位を確立するに至ったのだ。


3.旅行産業では従来のビジネスモデルが崩壊
観光産業は旅行産業よりも広い概念です。観光産業には、ホテル業やお土産屋さん、レンタカー会社なども含まれます。観光産業は非常に裾野の広い産業なのです。その結果、観光業は世界のGDPの1~2割を占めているとも言われ、それだけ社会的影響力も大きいのです。一方、観光産業の中核をなす旅行産業の主な収益源は、航空会社や鉄道会社のチケットの代行販売による手数料でした。

特に、航空会社が自社のチケットを販売する上で、旅行会社の協力は不可欠なものでした。ジャンボ機が普及し、大量の航空券を売りさばく必要が出てくると、航空会社の営業だけではとても無理があったのです。大量のチケットを販売するためには、団体旅行の企画を仕掛けて、地道な営業活動を進めていかなければなりません。

また、現在のようにインターネットが普及していないような段階では、航空会社の窓口だけで個人のお客様にチケットを売ろうとしても限界があります。そのため、多くの店舗を展開する旅行会社の店頭カウンターは、きわめて重要な販売拠点になっていたのです。

しかし、世の中が豊かになり、人々の生活により多くのゆとりが出てくると、若者を中心に、「お仕着せのパッケージツアー」から「個性ある旅」への需要転換が起こっていきます。ちょうどそうした社会変化に合わせるように情報化が急激に進展し、インターネットが普及していきました。

そうなると消費者は、旅行会社を介することなく、直接、航空会社やホテルに予約をするようになっていきます。こうして、航空会社と旅行会社との関係はより希薄なものになっていきました。日本の航空会社の場合、まだまだ旅行会社に対する依存度は先進諸外国に比べて高いのが現状ですが、海外のLCCなどでは、ほぼ全面的にインターネットなどを通じた直販形態がとられています。こうすることで航空会社は営業経費を抑えられるので、従来よりも圧倒的に安い運賃を実現できるようになりました。

競争が激化していく中で、大手の航空会社も航空券の直販比率を高めようと努力しています。さらに、旅行会社に対する手数料引き下げもどんどん進めています。

こうして旅行産業は大きな転機を迎えています。従来どおりのやり方を続けるだけではジリ貧になっていく旅行会社も多いでしょう。どこまで独創的な、あるいは個人ニーズに対応したサービス体制を構築できるかが、生き残りのカギになると思われます。

環境保護と観光振興の両立を狙ったエコツーリズムや、身体障害者の方々のためのバリアフリー観光などがその具体的な例と言えるでしょう。旅行産業、伸びしろは十分このように厳しい環境に置かれているものの、旅行産業、そして観光産業の将来性は非常に高いと言えます。

特に旅行産業について言えば、そもそも何もないところから旅行商品という価値あるものを生み出すわけですから、本来であればその付加価値生産性はきわめて高いはずなのです。しかも、個人に合ったきめ細かいサービスを提供するということになれば、さらに多数の優秀な人手が必要となりますので、雇用吸収力という点でも期待ができます。つまり、これからの時代にふさわしい成長産業となる可能性があるのです。

しかしながら、現実には、こうした特性はまだ十分に生かされておらず、どちらかと言えば航空会社や鉄道会社などのチケット販売代行業の地位に甘んじている状況にあります。そのため、長時間労働を強いられる反面、給与水準が低いなど、就業条件はあまり恵まれておらず、大学生に対する就職希望ランキングではつねに上位に顔を出すものの、実際の就職率・人材定着率は高いとは言えません。

これからは、優秀な人材がその能力を十分に発揮して、旅行産業、ひいては観光産業全体を引っ張っていくような環境を整えていく必要があるでしょう。それには観光産業のあり方自体を根本的に見直し、その再評価を進めなければなりません。そして、観光の発展があって初めて、航空会社も安定的な経営基盤を獲得することができるのです。

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