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国産ジェット機が再び世界の空を舞う日

2年に一度開催される世界最大規模の航空・宇宙技術の祭典 「パリ航空ショー」。
2007 年のこのショーでは、世界中から連日12万人を超すファンたちが会場に詰めかけました。そんなファンたちの注目を集めていた展示の一つが、三菱重工業の国産小型ジェット旅客機「MRJ (ミツビシリージョナルジェット)」です。

MRJは2003年に研究がスタートし、2013年の就航をめざして現在着々と開発が進行中。ショー会場に展示されたのは、その客室を再現したモックアップ(原寸大模型)でした。

1.客室を再現したモックアップに注目
MRJは座席数が70席前後と90席前後の2種類があり、リージョナル機としては初めて主翼や尾翼に複合材を本格的に採用。新型エンジンの搭載や最先端の空力設計などを取り入れ、燃料効率も従来機に比べて大幅にアップします。2007 年のパリ航空ショーでのお披露目は、三菱重工業が経済産業省の支援を得て実現しました。

もっとも、MRJ が本当に離陸できるかどうかは、その時点ではまだ未定でした。3000 億円とも4000億円ともいわれる総事業費をどう捻出するか、それだけのコストをかけて果たして採算はとれるのかなど、実現までの問題は山積。パリ航空ショーでの展示終了後も、三菱重工業は自社のホームページにMRJ専用のサイトを立ち上げるなど、PR活動に余念がありません。

「絶対に実現してほしいですね。日本の技術力をもう一度世界に知らしめるチャンスだとも思いますので」
成田からパリ航空ショーに向かう視察団のエンジニアたちも、口々にそう話していました。日本のファンたちの期待の大きさがうかがえますね。

1965年に就航した国産プロペラ旅客機「YS-1」が惜しまれつつも日本の空から退役したのは、その前の年(2006 年) の9月でした。メイドインジャパンの最新鋭シップが再び世界の空で活躍する姿を、近い将来、私たちは目にすることができるのでしょうか?

2.YS以来、40年ぶりの国産復活なるか
2008年に入って、そのMRJ を取り巻く動きがにわかに活発化してきました。
三菱重工業は07年10月にATO(正式客先提案)を決定し、国内外のエアライン各社に向けての販売活動を意欲的に続けてきました。そんな中でまず入ってきたのが、MRJプロジェクトにトヨタ自動車が参画の意向を示しているというニュース。

その後、ANAの山元峯生社長が記者団との会見で「MRJ購入の検討に入った」と明らかにし、08年3月27日に25機( 仮発注10機を含む)の購入を決定しました。JALも同様に、導入に意欲を見せています。

08年3月末に三菱重工業はいよいよ本格的な事業化に乗り出すことを発表。4月1日よりMRJ事業を担う新会社「三菱航空機株式会社」においてMRJの開発を加速させるとともに、世界各国のエアラインヘの販売活動をいっそう強力に推し進めていく方針を伝えました。

最新鋭の高効率エンジンを供給するプラットーアンドーホイットニー社のほか、油圧システムを担当するパーカー・エアロスペース社、電源や空調などを受け持つミルトンーサンドストランド社、降着システムを供給する住友精密工業などの各社が主要なパートナーとしてMRJプロジェクトに参画することも決まっています。

小型ジェット機は今後20年間で世界で5000機程度の需要が見込まれる成長分野です。現在までのところカナダやブラジルの航空機メーカーが先行していますが、原油価格の高騰が続く時代だけに、日本のオリジナル技術で実現する低燃費性をどこまでアピールできるかが今後のカギになりそうです。

3.改めて知る国産ジェットMRJの魅力
なんと美しい機体なのだろう。
はじめて披露されたMRJを前に、集まった報道陣の口から思わず出たのはそんな言葉だった。MRJは座席数70席と90席クラスのリージョナルジェット機。50年前に就航した国産プロペラ機YS-11以来となる純国産機として、期待が高まっている。

白で塗装された細身のボディの側面に、赤と黒、金色のラインが光る。ボディのカラーリングは「歌舞伎の隈取」をイメージしたものだ。空気抵抗を減少させる翼端のウイングレットに向かって上向きに反り返る主翼や、コクピットの下の鋭く尖ったノーズ。その見事なまでに美しいフォルムは、空気力学などを駆使して機体性能を極限まで追求した結果もたらされた。

エンジンは米プラット・アンド・ホイットニー (P&W)社製の最新型を採用した。リージョナルジェットの分野で先行するライバル機に比べ、2割低い燃費性能が特徴である。

従来の同クラスエンジンより直径が大きく、そのまま主翼につり下げると地面と接触してしまう難題を、主翼を付け根から先端に向けて上方へ角度をつけることで解決した結果、類いまれな精惇なシルエットが生まれたわけだ。流線型の機首も、見ただけで空気抵抗を最小限に抑える設計であることがわかる。

MRJが初飛行に成功したのは、2015年だった。誘導路で静かに自力走行をはじめた真新しい機は、滑走路上の離陸開始位置で一度停止。その後、徐々にスピードを上げながら疾走し、午前9時に地上を離れた。

実用化に向けては、これからが正念場だ。テスト飛行をくり返す過程で、これまで何度も初号機納入の延期が発表されている。道はけっして平坦ではないが、ハードな壁をクリアして初の国産ジェット機が実現すれば、間違いなく近未来の技術立国ニッポンの牽引役になっていくだろう。

4.ホンダジェットのユニークな特徴
「国産旅客機」といえば、もうひとつ気になるのがホンダジェットだ。こちらは2015年から納入を開始し、2017年上半期にも欧米やカナダ、メキシコなどの顧客にデリバリーした。

しかし厳密にいうと、ホンダジェットは国産旅客機ではない。アメリカに本社を置くホンダエアクラフトカンパニーが製造する米国製旅客機である。もちろん構想や基本設計は日本人スタッフが担当し、その意味ではMRJと同様、メイド・イン・ジャパンの技術の上に成り立っている飛行機なのだが。

ホンダジェットは最大7人乗りのビジネスジェットで、燃費の良さや広い室内などが特徴だ。ユニークなのは、エンジンが取り付けられている位置。通常は主翼の下につり下げられるように置かれるエンジンを、ホンダジェットは主翼の上面に乗せてしまった。

飛行機の揚力は、主翼の丸くふくらんだ上面に速い速度で空気が流れることで、下面とのあいだにできる負圧(気圧の差)によって生じさせる。その負圧を得るために「主翼の上面には気流を乱すものを置かない」というのが航空力学の常識だった。

しかし、エンジンを主翼の下側に付けると胴体が地面から高くなり、乗降のための施設(タラップなど)を用意しなければならない。ビジネスジェットには機体後尾の両脇にエンジンを取り付けている機種もあるが、そうすると胴体内部に支柱を通すことが必要で、客室が狭くなってしまう。

ホンダのエンジニアたちは「なんとか主翼の上側にエンジンを置けないか」をテーマにさまざまな位置に取り付けて気流の乱れをコンピュータで計算・分析する作業をくり返した。その結果、主翼の上側であっても気流が乱れず、空気抵抗の少ないエンジンの置き場所を見つけたのである。

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